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 歩き出して間も無くだった。

 木立の間からやや疲れた様子のウィリアムが現れた。

「や、やぁ、アンリエット! こ、こんな所で会うなんて奇遇だね! こ、これはもう運命というしかないんじゃないかな!」

 予め考えていたのだろう。ウィリアムは満面の笑みを浮かべ、ヘタクソな演技をしながら近付いてくる。どうやらパトリックが尾けていることには気付いていない様子だ。私は適当に相手をしてウィリアムを油断させることにした。

「別に奇遇でも運命でも無いわ。ここは私の屋敷のすぐ側だし、あなたがここにずっと居たことは屋敷から丸見えだったもの」

「えっ!? そ、そうなの!?」

 一瞬でウィリアムの笑顔が凍り付く。

「それで? こんなストーカーみたいな真似までして一体なにが目的なの?」

「す、ストーカーは酷いな...お、俺はただ君にもう一度会いたくて」

「だから今、会ってあげているじゃない。それで?」

「あ、あぁ、そ、その...な、なんとかもう一度考え直して貰えないかなと思って...」

「なにを?」

「そ、その...お、俺と結婚することに関して」

「だからお断りよ」

「そ、そこをなんとか...」

「大体あなた、結婚して一体なんの役に立つっていうのよ? 領地経営のこともなにも学んでいないんでしょ? なにが出来るっていうのよ?」

「え、え~とそれは...そ、そうだ! 健康には自信があるから! きっと子孫を沢山残せるよ!」

「アンタは種馬か」

 思わずそうツッコミを入れてしまった。だってそれしか取り柄が無いって自分で言っててどうなのよ? 悲しくなんないの? ある意味凄い精神力だわ。ちょっと感動すらしてしまうくらいに。

 そんなウィリアムが油断している隙に、パトリックはウィリアムの背後に回り込んだ。そしてやおらウィリアムの肩をガッシリと掴んで一言。

「ほう、そんなに健康が自慢なら貴様には良い職場を紹介してやろう」

「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ! あ、兄貴!? な、なんでこんなとこに!?」

「選ばせてやる。マグロの遠洋漁業船に乗ってずっと海の上か、鉄と亜鉛を掘る鉱山労働でずっと地の底か、どっちがいい?」 

「そ、その二択はどっちを選んでも死の匂いしかしない~!」

 慌てて逃げ出そうとするウィリアムの首根っ子を掴んだパトリックは、

「喧しい! 今まで散々貴様が放蕩三昧して来た報いだ! 少しは体を張って金を稼いで来い!」

「嫌だ嫌だ嫌だ~! アンリエット~! 助けてくれ~!」

 ウィリアムはまるで幼い駄々っ子みたいに、パトリックに引き摺られて行ってしまった。

 御愁傷様...私は心の中で手を合わせた...チーン...

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