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「構いやしないさ。なにせまずは、バカな両親とクソな弟が傾けそうになった我が家の財政の回復が急務なんでな。正直、社交している暇がないっていうのもあるんだよ」

「えぇっ!? そんなに酷い状況なの!?」

 私はビックリしてしまった。なんせヘンダーソン子爵領と言えば、とても子爵家とは思えない程かなり裕福な土地柄だったはずだ。確か肥沃な大地が広がり農業が盛んだったと記憶している。

 ヘタすりゃ我が伯爵家よりも財政は上だったかも知れない。それが一転して財政が傾くなんて...一体なにがあったというんだろうか?

「去年の雨季、我が領で水害が起こったのを知っているか?」

「えっ!? あぁ、えっと確か...大雨が続いて川が氾濫したんだっけ?」

 私は記憶を辿りながらそう言った。
 
「あぁ、そうだ。そのせいで我が領の誇る基幹産業である大穀倉地帯が壊滅的な状況に陥った。数年は収穫を見込めない程だ」

「そんなに...」

 私は絶句するしかなかった。

「氾濫を起こした川の治水工事や農民達に対する生活保障、被害を受けた農地の再生作業などなど金は幾らでも掛かる。我が家の蓄えた財産全て使っても到底足りない程の額だ」

「それは...国に訴えて援助を求めるべき案件じゃない? とてもじゃないけど一貴族だけで賄い切れる規模じゃないでしょう?」

「俺もそう思っていた。てっきりウチの両親も国に助けを求めているものとばかり。でも違ったんだ。無能な両親は『そんなことをしたらウチが領主としての統治能力を疑われてしまうだろう!』その一点張りだった。領民がどれだけ苦労しようと関係ない。自分達の保身ばかり考えるような最低なヤツらだったんだよ」

「そりゃ確かに国の介入を依頼した家は統治能力を疑われることはあるって聞くけど。最悪取り潰しになる可能性だってあるって。でも今回は領主が圧政を強いたとかの所謂人災じゃなく、大雨という自然災害による謂わば天災でしょ? 国としてもちゃんと事情を汲んでくれるはずだと思うけど?」

「俺もそう言ったんだがな...聞く耳を持とうとしなかった...オマケに苦しんでいる領民達に対して、自分達の財産を切り崩してまで救おうとする気もなかった。理由は自分達の生活水準を下げたくないから。そしてバカな弟の仕出かした不祥事を揉み消すための口止め料を確保しておくため。どうだ? 見事なくらいクズな貴族の見本だろ? 我慢ならなかった俺は、ヤツらを追い出して大急ぎで家督を継ぐことにした。領民達の苦しむ姿をこれ以上見ていたくなかったからだ。俺が家督を継ぐのに急いだ理由をこれで分かって貰えたか?」

 私はなにも言えなかった。
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