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「お嬢、なんか軽薄そうな男だったね?」

 アランは私と二人っきりの時、つまりセバスチャンが居ない時には昔の口調に戻る。普段ちゃんとしていれば、私があんまり喧しく言わないことを理解しているからだ。私としてもこのくらいは許容している。

「軽薄そうじゃなくて軽薄そのものなのよ。昔のアンタみたいにね」

「酷えなお嬢、俺はあそこまで軽くなかっただろ?」

「どうだか。似たり寄ったりじゃないの?」

 なんせコイツは二度目に会った時点で私をホテルに誘ったんだからな。

「お嬢が虐める~」

「バカなこと言ってないで、あの二人とハチ合わせしないように注意しといてよ? これ以上痴話喧嘩に巻き込まれるのなんてゴメンだからね?」

「へいへい。しかしあんなのがお嬢の幼馴染みとはねぇ」

「好きで幼馴染みになった訳じゃないわよ」

「そりゃそうなんだろうけど...なんていうか...お嬢ってさ、ロクでもない男を惹き付ける、あるいは好かれるフェロモンみたいなのを出してんじゃねぇの?」

 コイツは本当に失敬なヤツだな! そんなん出て堪るかい! 

「その言葉、そっくりそのままアンタにブーメランで返って来るんじゃない?」

「またお嬢が虐める~」

「ハァ...私は疲れたからもう寝るわよ。アンタ、私の部屋の前で寝ずの番してなさい」

「お嬢、横暴~ 労働条件改善要求~」

「喧しい!」

「なんならお嬢のベッドの中で寝ずの番を」

「引っこ抜くわよ?」

「なにを!? どうやって!?」

「股関を押さえんな! 生々しい!」

 アホなことしている内にマジで眠くなって来たからアランを部屋から追い出した。


◇◇◇


 翌日、どうやらウィリアムとケバケバ女は既に宿を発ったようだ。顔を合わせなくてホッとする。

「アラン、少し急ぎましょう。今日中に領地に着きたいわ」

「はいよ。ちなみにここからなら急げば着ける距離なん?」

「夜になるとは思うけど着くはずよ」

「了解~ 飛ばすぜ~」

 アランの操縦が上手かったのか、その後なんとか日暮れ前に領地に着くことが出来た。

「アンリエットお嬢様、お久し振りでございます」

「ハンス、久し振り。元気そうで良かったわ」

 家令のハンスが出迎えてくれた。両親が健在の頃から仕えてくれている信頼の置ける人物だ。既に老年に差し掛かる年齢のはずだが、まだ髪は黒々としていて腰も曲がっていない。

「なんともお痛わしい...大変な目に遭われましたな...」

 ハンスには婚約破棄となった事情を予め伝えてある。

「心配してくれてありがとう。もう大丈夫よ。これからよろしくね?」

「こちらこそよろしくお願い致します。ささ、長旅でお疲れでしょう? まずはごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
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