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 ウィリアムはヘンダーソン子爵家の次男坊だ。

 ヘンダーソン子爵家は我がフィンレイ伯爵家の隣の領地を治めている。だから子供の頃から交流があった訳だが、ぶっちゃけ私は昔からこの男が大嫌いだった。

 とにかくいい加減でちゃらんぽらんで更に無類の女好きだったからである。私も度重なるセクハラを受けた。本当にイヤな思い出しかない。子爵家の次男坊として甘やかされて育ったせいか、未だにフラフラと遊び歩いて定職にも就いていないと噂で聞いた。

 そして今も傍らには派手な化粧を施した、如何にもと言った感じの安っぽい女を侍らしている。

「久し振りだなぁ~! 元気そうで良かったよ! ところでこんな所に一体何の用なんだい?」

「領地に帰る途中なのよ」

「そうだったのかぁ~! ん? その頬の絆創膏はどうしたんだい?」

「あぁ、これはちょっと虫に刺されちゃったのよ」

 もちろん頬の傷はとっくに抜糸して治っている。だが当然ながら傷痕は残っているので、それを誤魔化すために虫刺されを装おっているという訳だ。

「そりゃ大変だったな! 顔は女の命なんだから大事にしないとな! 今後は気を付けるんだぞ?」

「...えぇ、ありがとう...」

「ねぇ、ウィリアム! 誰なのよこの女!」

 痺れを切らしたのか、派手な化粧女がウィリアムの腕にしがみ付くようにして抗議する。そりゃ目の前で自分の男が他の女と仲良さ気にしていたら面白くないだろう。

 ウィリアムはこういった配慮に欠ける。だから軽薄な印象しか与えない。

「あぁ、マーガレット! 済まん済まん! 彼女はアンリエットって言って俺の幼馴染みなんだよ!」

「...どうも。単なる幼馴染みで、ウィリアムとはそれ以上なんの関係も無いアンリエットです...」

 私はこんな所で修羅場に巻き込まれるのはゴメンなんで、ウィリアムとは顔見知り程度の関係しかないことを強調した。

「ふうん、幼馴染みねぇ...」

 ウィリアムがマーガレットと呼んでいるこの女は、まるで値踏みでもするかのような不躾な視線を私に向けて投げて来た。私はそれがとても不快だったし、これ以上ウィリアムと関わりたくもなかったので、早々と部屋に引っ込むことにした。

「それじゃあ馬車の旅で疲れているのでこれで。ご機嫌よう」

「あっ! ちょっと待てよ、アンリエット! 領地にはどのくらい居るんだい?」

「ほんの二、三日よ」

 大嘘である。だが正直にずっと居るつもりだなんて話したら、ここで更に追及されることだろう。だから適当に流しておいた。

「そうなのかぁ~! だったら今度遊びに行くよ! 積もる話もあるしな!」

「ちょっとウィリアム! どういうつもりよ! 私というものがありながら!」

 また口論を始めた二人を放っておいて、私はさっさと部屋に戻った。

 遊びに来るだって? そん時は居留守使っちゃる!
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