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「はっ!? なにを言ってるんだ!? 君を貴族に戻す!? そんなこと無理に決まってるじゃあないか」

「大丈夫よきっと! あなたの公爵家の力を持ってすれば、実家に勘当された私を元に戻すことは可能なはずだわ! そうでしょう!? あなたと私が縒りを戻したって言えば、ウチの両親もきっと許してくれるはずだわ! だから」

「ちょっと待てスカーレット! 君は実家に寄らないで先にここに来たのか?」

 スカーレット嬢の話を途中で遮ってクリフトファー様が詰問する。

「えぇ、そうよ...とてもじゃないけど、私は実家に顔出し出来るような立場じゃあないでしょう? だからクリフ、先にあなたに会いに公爵家へ行ったのよ。だけどあなたは不在だった。どこに行ったのかと屋敷の門衛に尋ねても『行き先は知らないし例え知ってても言わないって』言われた」

 まぁそりゃ当然だろう。公爵家の門衛ともなれば、その程度の教育を受けていて当たり前である。身元不明の怪しい人物に、主人の行き先をペラペラ喋るはずがない。

「仕方ないからその辺に隠れて、あなたが帰ってくるのを待ち伏せしようとしたのよ。でも門を離れる寸前、門衛が屋敷の使用人と話している声がちょっとだけ聞こえたの」

『クリフ様は今日もアンリエット様の所だっけ?』

「確かにそう聞こえたわ。アンリエットと言えばフィンレイ伯爵家のご令嬢。そこに足繁く通っているとなれば、彼女が新しい婚約者に違いない。だからここに来たのよ。あなたに会えるかも知れないって思って。あなたが居なくても、その女にあなたと別れて貰うようお願いしようと思って」

「なるほどな...経緯は良く分かった。だが君は先に実家へ行くべきだったな。そうすれば今の君の立場ってもんを嫌でも知ることになっただろう。そうしておけば、この家に来ようだなんて気も起きなかっただろうし、僕と縒りを戻そうなんて気も起きなかっただろうよ」

「それ、どういう意味よ!? いくら実家から勘当されたって言っても」

「そうじゃない」

 またクリフトファー様がスカーレット嬢の言葉を遮る。なるほどね。スカーレット嬢はまだ知らないんだ。自分が実家から勘当されたどころの騒ぎじゃあないんだってことを。

「君は不慮の事故で命を落としたことになっている。我が公爵家にとっても君の実家にとっても、駆け落ちされたなんて醜聞でしかないからね。それを避けるために双方合意の上、君は死んだってことになったんだよ」

 それを聞いたスカーレット嬢は凍り付いた。
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