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「触るな! 汚らわしい!」

 クリフトファー様はスカーレット嬢を振り払った。

「キャアッ!」

 スカーレット嬢がもんどり打って倒れる。

「誰だか知らないが、高位貴族である僕に軽々しく触れるんじゃない! この平民風情が! 斬り捨てられたいか!?」

 そう言ってクリフトファー様は、帯剣している剣の柄に手を掛けた。

「そんな! クリフ! 私よ! スカーレットよ! 自分の婚約者を忘れちゃったの!?」

「僕に婚約者など居ない! クリフなどと馴れ馴れしく呼び捨てにするんじゃない! 誰が許可したか!?」

「あぁ、クリフ! 怒っているのよね!? それは当然だわ! 私はあなたを裏切ってしまったんですものね...本当にごめんなさい...私がバカだったわ...あなたと別れて初めて思い知ったのだもの...『真実の愛』の相手はあなただったということを...どうか愚かな私を許して頂戴...そしてもう一度やり直しましょう? 今度こそあなたを裏切ったりしないわ! 私を信じて!」

 また『真実の愛』か...つくづく思う。それをまるで免罪符でもあるかのような使い方をするのは止めて欲しいものだな...

 この間まで自分の身に振り掛かっていたことだからこそ尚更そう思う。この女は自分がどれだけのことを仕出かしたのか、どれだけの人に迷惑を掛けたのかちゃんと自覚しているんだろうか?

 まさか『真実の愛』だとでも言えば、全てを許して貰って全て元通りになると本気で思ってるんじゃないだろうな?

 だとすれば、おめでたいを通り越していっそ哀れに思えて来るな。

「一体なにを言ってるんだ!? 気でも触れたのか!? 僕と君との間に愛なんてなかった。駆け落ちした時に他ならぬ君がそう言ったんじゃないか。それをなんだ今更!? その格好を見るに、どうやら一緒に逃げた相手の男に捨てられでもしたのか。そして生活に困って僕と縒りを戻そうと画策した。だが既に僕にはアンリエットという愛しい人が居る。だからアンリエットに僕と別れて欲しいと言いに来た。そんな所だろう!?」

「えぇ、そうよ! あの男、私を騙したのよ! 私以外にも他に女が居たの! 家を出る時に黙って持ち出した現金や、私の宝石類を全て奪って私を捨てたのよ! 許せないでしょう!? ねぇクリフ! 私も被害者なのよ! お願いだから助けて頂戴! 公爵家であるあなたが一言言ってくれれば、また私を貴族に戻すなんて簡単なことでしょう!? またやり直しましょうよ! こんな女なんかより私の方がずっとあなたを愛しているわ!」

 どこまで行っても自分のことしか考えていない女だな...私はスカーレット嬢に本気で腹が立って来た。

 
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