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 客間に行くと、とてもじゃないが貴族令嬢とは思えない、見窄らしい身形をした女が座っていた。どうやらこれがスカーレット嬢らしい。

 慣れない逃亡生活に疲れ果てているのだろう。着ているワンピースはボロボロで手の爪は割れ捲っている。髪はボサボサで色艶も悪い。頬は痩せこけていて眼窩が落ち窪んでいる。ただ目だけがギラギラと輝いていて気味が悪い。

 良くこんなの通したなと思った。普通なら門前払い一択だろう。

「初めましてですわね。私はフィンレイ伯爵家が当主アンリエットと申します。本日はどういったご用件で?」

「お初にお目に掛かります。私はモリシャン侯爵家のスカーレットと申します。本日はお願いがあって参りました。実は...」

 私はスカーレット嬢の言葉を遮った。先にセバスチャンから聞いてはいたが、元貴族令嬢だと言うならまだいい。だが未だ現役であるような口振りは聞き捨てならない

「ちょっとお待ち下さいスカーレット様、一体いつモリシャン侯爵家に復帰されたのですか? 死亡届けが出ていると伺いましたが?」

「あぐっ...そ、それは...」

「貴族でも無いのに貴族であると名乗った場合、身分詐称になるということをご存知でしたか? ヘタすりゃ打ち首ものですよ?」

「えっ...そ、そんな...」

 知らなかったのか...いくらなんでも考えが浅はか過ぎるだろ...貴族というのはそれだけ重い重責と崇高な義務を背負っているからこそ、貴族だと言って偉そうにふんぞり返っていられるのだ。

 その重責も貴族としての義務も放棄して、惚れた男との逃避行を選んだこの女に貴族だと名乗る資格はどこにも無い。

「お帰り下さい。私が官憲に訴える前に。それとも監獄行きをご所望ですか?」

「ま、待って下さい! は、話を! ど、どうか話を聞いて下さい! 私は...」

 スカーレット嬢が何か言い掛けた時だった。

「アンリエット! 大丈夫か!?」

 ノックもせず物凄い勢いでクリフトファー様がやって来た。

「えっ!? クリフトファー様!?」

 いきなりの登場に私は面食らっていた。それはスカーレット嬢も同様だったようだが、立ち直りが早かったのは私よりもスカーレット嬢の方だった。

「まぁ、クリフ! 嬉しいわ! 私に会いに来てくれたのね!」

 そう言って涙を流しながらクリフトファー様に抱き付いたのだ。

 なんだこれは!? 私は一体なにを見せ付けられているんだ!?

 目の前の光景に頭の理解が追い付かず、ただただ私は混乱するだけだった。

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