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 その日は取り敢えず「考えさせて欲しい」とクリフ様にお願いして帰って貰った。

 冷静になって考える時間が欲しかったのだ。

「という事なのよ...」

 そういう訳でまず私は、兄のロバートの元へ赴いて事の次第を報告していた。

「なるほどな...クリフトファー様が...」

 兄はしばらく考え込んだ後、

「アンリ、お前はどうしたいんだ?」

「私は...正直言ってまだ良く分からないわ...クリフ様は半ば強引に私の計画に入り込んで来ては、色々と掻き回して楽しんでいるように見えた。最初はそれを腹立たしく思っていたけれど、計画が進むに連れて次第に同士のような感覚になって行った。最後の頃は一緒に居てくれて寧ろ頼もしいって思ったくらい」

「それならもう答えは出てるんじゃあないか?」

 やっぱりそうなのかな...

「そうかも知れないけど...兄さんはいいの?」

「俺の事は気にするな。今まで散々好きな事をやらせて貰ったんだ。これからは俺も自分の責務を果たすことにするよ」

「でも兄さん、それじゃあ」

 私の言い分を兄が遮って続ける。

「それにな、最近スランプなんだ...昔のように筆が進まなくなった。そろそろ筆を折る潮時なのかも知れないなって思い始めていた所だ」

「そんな...兄さんが?」

 私は信じられない思いで兄を見詰めた。あの才能の塊みたいな兄が小さくなったように見えてしまう。なんだか悲しくなってしまった。

「せっかくアンリが出版社まで立ち上げてくれたのに申し訳ない。これからは後進の指導に力を入れることにしようと思っている。もちろん伯爵家の仕事も、クリフトファー様が代官を手配してくれるって言うなら、側に付いてしっかり学ぶつもりだから。アンリ、お前は何も心配しなくていい」

「そうは言っても伯爵家を継ぐってことは、社交もしなければならないし後継ぎだって作らなきゃいけない。兄さんに出来るの? 女の人とダンスしたり、お嫁さんを迎えて子作りしたりもするのよ?」

 元々が引き籠もりで女性が苦手な兄には大変な決断になる事だろう。

「うぐっ...そ、そこはなんとか頑張るさ...いざとなれば養子を取るって手もあるし...と、とにかくアンリ、お前は伯爵家の事を心配する必要は無いぞ?」

「そうなのね...兄さんがそこまで決心してるなら、私から言うことは何も無いわ...」

 兄がここまで言ってくれるなら、私としても安心して家を離れる事が出来るのだが、やはりまだ公爵家に嫁ぐというのはハードルが高くて決心が付かない。

 私はエリザベートに相談してみる事にした。
 

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