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 メモにはオーシャンビューで有名なホテルのラウンジで待つと書いてあった。

「これはこれは...」

 メモを覗き込んだクリフトファー様の目が剣呑な光を帯びる。

「フフフッ、素敵なお誘いね」

 私がそう言うとクリフトファー様は呆れたような表情を浮かべて、

「まさか行く気じゃないよね?」

「あら? もちろん行きますわよ? 向こうから罠に落ちてくれたんですもの。手間が省けましたわ」

 頭にクエスチョンマークを浮かべているクリフトファー様に、コッソリと囁きながら説明する。

「なるほどねぇ。アンリ、君だけは敵に回したくないわ」

 両手を上げて降参のポーズを取るクリフトファー様に、

「あら、お誉めに預かり光栄ですわ」

 私はニッコリと微笑んだのだった。


◇◇◇


「やぁ、美しい人。実は来てくれないかと思ってちょっと不安だったよ」

 私がラウンジに着くと、既にほろ酔いモードのアランが迎えた。

「あら? 自分に自信がなかったの?」

「そりゃそうだよ。だってお相手はお貴族様なんだもん。こっちはしがない平民。正直、来てくれるかどうかは五分五分の賭けだったな」

「あなたは賭けに勝ったようね」

「そのようだ」

 アランはグラスを掲げて、

「君の瞳に乾杯!」

 そう言った。危うく私は吹き出す所だった。お前はいつの時代の生まれなんだ!?

 それからしばらくは、舞台の話やアランの女性遍歴の話などで盛り上がった。やがて夜も更けて来た頃になって、アランが懐から「チャリン」と音のするルームキーを取り出す。

「部屋を取ってあるんだ。この後は二人っきりで。いいだろ?」

 私は無言で頷いた。


◇◇◇


「さぁさぁ、入って入って。このホテルは全室オーシャンビューなんだよ? 今は夜だから真っ暗だけどね」 

 そう言ってアランは窓の先を指差す。

「素敵ね。ねぇ、ところでお腹空かない? 私、ちょっと小腹空いちゃったわ。ルームサービスで何か頼まない?」

「いいね! 俺も腹減ってたんだ!」

 二人で軽食を頼む。

 コンコン

「ルームサービスです」

 やがてボーイがワゴンを押しながら部屋に入って来た。 

「ご苦労さん」

 アランがチップを渡そうとした。その手をボーイが捻り上げてアランを床に引き摺り倒す。

「ぐえっ!?」

 アランが潰されたガマガエルのような声を出す。

「痛てててっ! んなぁっ!? な、なんなんだよこれ!? お、お前何者だ!?」

 私は喚き散らすアランの顔を踏み付けて黙らせる。

「静かにしなさい。こんな夜更けにみんなの迷惑でしょ」

 途端にアランが静かになった。

「さぁ、ちょっとお話しましょうか」

 私はアランを見下ろしながらそう言った。
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