1 / 276
1
しおりを挟む
それは全くの偶然だった。
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。
そこで目撃してしまったのだ。
「あぁっ! 愛しいキャロライン! 君とこうやって隠れてコソコソと合わなければならないなんて! 僕達はなんて不幸なんだ!」
「仕方ないわ、ギルバート。私はしがない男爵令嬢で、あなたは侯爵家の次男坊。そして伯爵令嬢の婚約者なんですもの。いくら私達が幼馴染みで想い合っていたって、身分の差はどうしようもないのよ」
「そんなことない! 真実の愛の前には身分の差なんて関係無いんだ! ほら、この本にもそう書いてある!」
「まぁっ! それは! 現在巷でベストセラーになっている『真実の愛は永遠なり』ね! 私、この本大好きなの!」
「僕もだよ! そしてこの本が僕らのバイブルになるんだ!」
「えっ!? どういうこと!?」
「いいかい? この本のストーリーは主人公の方が子爵令息、ヒロインの方が平民の幼馴染みで、身分の差を越えて愛を育んでいくんだ。だが悲しいかな、主人公は貴族であるが故に家から命じられた政略結婚を拒むことが出来ない。泣く泣く婚約を結ぶことになったが、主人公の気持ちは幼馴染みのヒロインに向いたままだ。そのことに嫉妬した主人公の婚約者である悪役令嬢は、陰湿な虐めを繰り返しヒロインを主人公から引き離そうとする。だがしかし!」
そこでギルバートは自分に酔ったかのように一旦間を空けた。
「障害があればあるほど二人は愛は逆に燃え上がり、主人公はヒロインと絶対に別れないと心に誓う。そして悪役令嬢を追い詰めるだけの証拠を掴もうと動き出すんだ。どうだい? まるで僕達のことを描いてるみたいじゃないか?」
「本当だわ! まさしく今の私達の境遇にピッタリよ!」
「そうだろう? まだ本の続きは発売されてないけど、これだけは断言できる! 悪役令嬢は断罪されて主人公達はハッピーエンドを迎えると!」
「素敵! そうなれたら最高だわ!」
「なれたらじゃない! なるんだよ! 僕達もハッピーエンドを迎えるんだ!」
「で、でも...一体どうやって!?」
「フフフッ! 僕に考えがある! アンリエットを悪役令嬢に仕立て上げるんだ!」
「えぇっ!? そんなこと出来るの!?」
「出来るさ! 僕に任せといてくれ! アンリエットは僕の言いなりだからね! 伯爵家を僕に継がせるように画策して、その後で君に対する虐めをでっち上げて断罪する! アンリエットを家から追い出したら君を迎え入れる! どうだい? 完璧なプランだろう?」
「で、でもそれじゃアンリエット様が不憫過ぎるわ...」
「キャロラインは優しいな。でも心配要らないよ。アンリエットとは元々政略目的の結婚だったんだ。お互い情なんてない。僕の心は今までも、そしてこれからもずっと君と共にあるんだ! そうだろう? 僕達は真実な愛で結ばれているんだから!」
「あぁ、ギルバート!」
なあるほど。よおく分かった。
私はヘタな三文芝居を見せられて、辟易しながらそっとその場を離れたのだった。
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。
そこで目撃してしまったのだ。
「あぁっ! 愛しいキャロライン! 君とこうやって隠れてコソコソと合わなければならないなんて! 僕達はなんて不幸なんだ!」
「仕方ないわ、ギルバート。私はしがない男爵令嬢で、あなたは侯爵家の次男坊。そして伯爵令嬢の婚約者なんですもの。いくら私達が幼馴染みで想い合っていたって、身分の差はどうしようもないのよ」
「そんなことない! 真実の愛の前には身分の差なんて関係無いんだ! ほら、この本にもそう書いてある!」
「まぁっ! それは! 現在巷でベストセラーになっている『真実の愛は永遠なり』ね! 私、この本大好きなの!」
「僕もだよ! そしてこの本が僕らのバイブルになるんだ!」
「えっ!? どういうこと!?」
「いいかい? この本のストーリーは主人公の方が子爵令息、ヒロインの方が平民の幼馴染みで、身分の差を越えて愛を育んでいくんだ。だが悲しいかな、主人公は貴族であるが故に家から命じられた政略結婚を拒むことが出来ない。泣く泣く婚約を結ぶことになったが、主人公の気持ちは幼馴染みのヒロインに向いたままだ。そのことに嫉妬した主人公の婚約者である悪役令嬢は、陰湿な虐めを繰り返しヒロインを主人公から引き離そうとする。だがしかし!」
そこでギルバートは自分に酔ったかのように一旦間を空けた。
「障害があればあるほど二人は愛は逆に燃え上がり、主人公はヒロインと絶対に別れないと心に誓う。そして悪役令嬢を追い詰めるだけの証拠を掴もうと動き出すんだ。どうだい? まるで僕達のことを描いてるみたいじゃないか?」
「本当だわ! まさしく今の私達の境遇にピッタリよ!」
「そうだろう? まだ本の続きは発売されてないけど、これだけは断言できる! 悪役令嬢は断罪されて主人公達はハッピーエンドを迎えると!」
「素敵! そうなれたら最高だわ!」
「なれたらじゃない! なるんだよ! 僕達もハッピーエンドを迎えるんだ!」
「で、でも...一体どうやって!?」
「フフフッ! 僕に考えがある! アンリエットを悪役令嬢に仕立て上げるんだ!」
「えぇっ!? そんなこと出来るの!?」
「出来るさ! 僕に任せといてくれ! アンリエットは僕の言いなりだからね! 伯爵家を僕に継がせるように画策して、その後で君に対する虐めをでっち上げて断罪する! アンリエットを家から追い出したら君を迎え入れる! どうだい? 完璧なプランだろう?」
「で、でもそれじゃアンリエット様が不憫過ぎるわ...」
「キャロラインは優しいな。でも心配要らないよ。アンリエットとは元々政略目的の結婚だったんだ。お互い情なんてない。僕の心は今までも、そしてこれからもずっと君と共にあるんだ! そうだろう? 僕達は真実な愛で結ばれているんだから!」
「あぁ、ギルバート!」
なあるほど。よおく分かった。
私はヘタな三文芝居を見せられて、辟易しながらそっとその場を離れたのだった。
70
お気に入りに追加
3,465
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる