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 それは全くの偶然だった。

 とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。

 そこで目撃してしまったのだ。

「あぁっ! 愛しいキャロライン! 君とこうやって隠れてコソコソと合わなければならないなんて! 僕達はなんて不幸なんだ!」

「仕方ないわ、ギルバート。私はしがない男爵令嬢で、あなたは侯爵家の次男坊。そして伯爵令嬢の婚約者なんですもの。いくら私達が幼馴染みで想い合っていたって、身分の差はどうしようもないのよ」

「そんなことない! 真実の愛の前には身分の差なんて関係無いんだ! ほら、この本にもそう書いてある!」

「まぁっ! それは! 現在巷でベストセラーになっている『真実の愛は永遠なり』ね! 私、この本大好きなの!」

「僕もだよ! そしてこの本が僕らのバイブルになるんだ!」

「えっ!? どういうこと!?」

「いいかい? この本のストーリーは主人公の方が子爵令息、ヒロインの方が平民の幼馴染みで、身分の差を越えて愛を育んでいくんだ。だが悲しいかな、主人公は貴族であるが故に家から命じられた政略結婚を拒むことが出来ない。泣く泣く婚約を結ぶことになったが、主人公の気持ちは幼馴染みのヒロインに向いたままだ。そのことに嫉妬した主人公の婚約者である悪役令嬢は、陰湿な虐めを繰り返しヒロインを主人公から引き離そうとする。だがしかし!」

 そこでギルバートは自分に酔ったかのように一旦間を空けた。

「障害があればあるほど二人は愛は逆に燃え上がり、主人公はヒロインと絶対に別れないと心に誓う。そして悪役令嬢を追い詰めるだけの証拠を掴もうと動き出すんだ。どうだい? まるで僕達のことを描いてるみたいじゃないか?」

「本当だわ! まさしく今の私達の境遇にピッタリよ!」

「そうだろう? まだ本の続きは発売されてないけど、これだけは断言できる! 悪役令嬢は断罪されて主人公達はハッピーエンドを迎えると!」

「素敵! そうなれたら最高だわ!」

「なれたらじゃない! なるんだよ! 僕達もハッピーエンドを迎えるんだ!」

「で、でも...一体どうやって!?」

「フフフッ! 僕に考えがある! アンリエットを悪役令嬢に仕立て上げるんだ!」

「えぇっ!? そんなこと出来るの!?」

「出来るさ! 僕に任せといてくれ! アンリエットは僕の言いなりだからね! 伯爵家を僕に継がせるように画策して、その後で君に対する虐めをでっち上げて断罪する! アンリエットを家から追い出したら君を迎え入れる! どうだい? 完璧なプランだろう?」

「で、でもそれじゃアンリエット様が不憫過ぎるわ...」

「キャロラインは優しいな。でも心配要らないよ。アンリエットとは元々政略目的の結婚だったんだ。お互い情なんてない。僕の心は今までも、そしてこれからもずっと君と共にあるんだ! そうだろう? 僕達は真実な愛で結ばれているんだから!」

「あぁ、ギルバート!」

 なあるほど。よおく分かった。

 私はヘタな三文芝居を見せられて、辟易しながらそっとその場を離れたのだった。
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