上 下
20 / 89

20

しおりを挟む
 次の日、エリスとカイは町長の所に報告に来ていた。

「定期隊商ですか。そろそろ来る頃かなとは思ってましたが、今週ですか」

 クズの部屋を盗聴した結果を知らせる。

「いつもはどのように連絡が来るんですか?」

「我々に事前連絡はありません。彼らは街に入るより先に領主邸に立ち寄ります。そこから街に入って来るんです」

「それは昔からですか?」

 すると町長は苦い顔をして、

「いえ、あのクズが領主になってからです」

「ということは...」

「えぇ、お察しの通りです。彼らは領主邸で持って来た荷を全て卸し、街へは注文を取りに来るだけなんです。そして卸した荷は...」

「あのクズが勝手に値段を設定して、仕入値との差額を着服する...と」

「はい、仰る通りです...」

「いやもう...どんだけクズなんですか...」

 エリスは吐き捨てるように言った。清々しい程のクズっぷりである。これ以上ない程に。

「今回はエリス様のお陰で、食糧に関しては彼らに頼る必要がありませんから、一回くらい彼らが来なくても問題ありません。嗜好品を楽しみにしていた人達には我慢して貰うことになりますけどね」

「分かりました。では当初の予定通り、準備が整い次第、兵糧攻めを開始することにします。まず、隣の領地に用事がある人は一両日以内に移動するようにして下さい。また、行ったらしばらくは、こっちに戻って来れないことを周知しておいて下さい」

「分かりました。そのように伝えます...」

 エリスは町長の顔色が優れないことに気付いた。

「なにか懸案事項でもありましたか?」

「あぁ、いえ...その...懸案事項といいますか...屋敷に囚われていたところを、エリス様に助けて頂いた女性達のことを覚えておられますか?」

「えぇ、もちろんです。四人居ましたよね。彼女達がなにか?」

「彼女達、すっかり怯えていましてね。無理もありませんが。この街に居たくないと言ってるんです。また拐われるのではないかと、トラウマを抱えてしまったようです」

「あぁ、確かにそうですよね。辛い目に合ったんだから。同じ女として気持ちは痛い程良く分かります」 

「えぇ、ですが、そうかといって若い女性達だけで街の外に出すというのは、残される家族が心配していまして、どうしたものかと...」

「分かりました。では私が引き取ります」

「よろしいのですか?」

「えぇ、これから忙しくなりますし、人手は多い方がいいですから。それに私の所なら街から離れているし、トラウマに悩まされることもないでしょう。帰ろうと思えばいつでも家族の元に帰れますしね」

「ありがとうございます」

「まずはその四人に合わせて貰えますか?」

「分かりました。すぐ手配します」


◇◇◇


「どうも.. 先達ては大変お世話になりました...」

 現れた四人の女性達は皆暗い表情を浮かべていた。なのでエリスは、殊更明るく振る舞った。

「あぁ、そういう堅苦しいのは苦手だから、もっとざっくばらんにして。まずは自己紹介からね。私はエリス、こっちがカイ、あなた達は?」

 彼女達は順に、スズ、ラン、ヒメ、ユリと名乗った。この中ではユリがリーダー格らしい。全員が19歳で同い年。実家はそれぞれ商売を営んでいて、彼女達はその店の看板娘だったらしい。

「なるほど、そこをあのクズに目を付けられたんだね」

「えぇ、ウチは居酒屋を営んでいて、私も店に出てたんですが、そこに何度も足繁く通って来ては、私を誘ってきたんです。嫌だったんでずっとお断りしてたんですが、いつまでも私が靡かないとみるや無理矢理に...」

 そう言ってユリは俯いてしまった。他の女性達も似たようなものなんだろう。

「辛かったね...でも、もう大丈夫だよ。あのクズにはもう二度と手出しなんかさせないから安心して。あなた達は私が守るから」

 エリスがそう言うと、女性達は安心したのか少しだけ笑顔を浮かべた。

「あの、それで私達はこれからどういう仕事をするんでしょうか?」

「うん、ちゃんと考えてあるから任せて」

 そう言ってエリスはニッコリ微笑んだ。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。

Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。 それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。 そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。 しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。 命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

処理中です...