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エリスとカイは街に来ていた。
カイの寝具を買い揃えるためである。
「おじさん、このベッドと枕、シーツにカーテン、あとこのクッションも、それから壁紙も...」
「ちょ、ちょっと待って、エリス! 買い過ぎ! 買い過ぎだって!」
カイは慌てて止めた。ここは家具店である。少なくとも「ここからここまで全部」とか大人買いするような店では断じてない。それなのに...
「まだまだこんなもんじゃないよ。おじさん、このソファーとテーブルと箪笥とあとそれから...」
「話を聞いて~! それもう寝具じゃないよね!?」
カイの叫びも虚しく、エリスの買い物は、店にある商品を根こそぎ買い占める勢いで続くのだった。
昼食を取るべく入った食堂で、カイは魂が抜けたような顔で呆けていた。結局、あの後もエリスの買い物は続き、金物屋で食器類を、洋品店で普段着や寝間着を、雑貨屋で日用品を、怒涛の勢いで購入していった。
「ふぅ~ さすがに疲れたね~」
注文を済ませたエリスが満足した表情を浮かべる。もちろん肉を頼んだ。
「あのさエリス...僕、あんまりお金持ってないって言ったよね? 今日の買い物、とてもじゃないけど払えるような金額じゃないんだけど...」
「あぁ、気にしないで。必要経費だと思って貰っていいから」
「必要経費って...」
「こう見えて私、結構お金持ちだから」
そうなのである。実はエリス、例の成長促進剤の特許を取っている。特許収入だけで、一生遊んで暮らせるだけの金を稼いでいる。あの程度の大人買いなど使った内に入らない。
「これからカイには、うんと働いて貰うんだから、快適な住環境を用意するのは当然でしょ?」
それはヒモというのではないだろか...自分はそれに見合う働きが出来るのだろうか...カイは自信がなくなってきた。
「今日だって私を街まで運んでくれたじゃない? 柵作りだって手伝ってくれたし、もう既に感謝してもしきれないくらいなんだよ? カイにしか出来ない、他の誰にも真似出来ないことなんだよ?」
そこでエリスは一旦言葉を切った。そしてカイの目をじっと見詰めて、
「私には、カイが必要なんだよ?」
カイは瞠目した。そして涙が出そうになった。自分を必要としてくれる人が居る。その事が何より嬉しかった。
「ありがとう、エリス。僕、一生懸命頑張るよ。エリスが行きたいと言うなら、どんな所にだって乗せていってあげるよ」
そう言って笑ったカイの顔に、もう迷いはなかった。
◇◇◇
「さて、それじゃあ早速、カイの部屋を作りますかね」
カイの背に乗って小屋に戻ったエリスは、まるでおやつでも作るかのような軽い感じで言った。ここは元々、炭焼小屋だったこともあり、あまり広くない。エリスが一人で暮らす分には問題ないが、カイが一緒に住むとなると明らかに狭すぎる。
「初めは二階を作ろうかなって思ったんだけど、強度的に問題ありそうなんで、隣に作ることにしたんだ。こんな風にね」
すると、土を固めて煉瓦のようにして作った部屋が、小屋にピッタリと寄り添うような形で、あっという間に現れた。相変わらずとんでもない魔力量である。
「小屋と接するこの部分をスパッと切ってドアを付けて、ベッドはここ、ソファーはここ、テーブルはここね。箪笥をここに置くから後で服をしまって。あとそれから窓をくり貫いてカーテンを取り付けて、次は壁紙を...」
カイは自分の部屋が形になっていく様を、ただ呆然と見ているしかなかった。
カイの寝具を買い揃えるためである。
「おじさん、このベッドと枕、シーツにカーテン、あとこのクッションも、それから壁紙も...」
「ちょ、ちょっと待って、エリス! 買い過ぎ! 買い過ぎだって!」
カイは慌てて止めた。ここは家具店である。少なくとも「ここからここまで全部」とか大人買いするような店では断じてない。それなのに...
「まだまだこんなもんじゃないよ。おじさん、このソファーとテーブルと箪笥とあとそれから...」
「話を聞いて~! それもう寝具じゃないよね!?」
カイの叫びも虚しく、エリスの買い物は、店にある商品を根こそぎ買い占める勢いで続くのだった。
昼食を取るべく入った食堂で、カイは魂が抜けたような顔で呆けていた。結局、あの後もエリスの買い物は続き、金物屋で食器類を、洋品店で普段着や寝間着を、雑貨屋で日用品を、怒涛の勢いで購入していった。
「ふぅ~ さすがに疲れたね~」
注文を済ませたエリスが満足した表情を浮かべる。もちろん肉を頼んだ。
「あのさエリス...僕、あんまりお金持ってないって言ったよね? 今日の買い物、とてもじゃないけど払えるような金額じゃないんだけど...」
「あぁ、気にしないで。必要経費だと思って貰っていいから」
「必要経費って...」
「こう見えて私、結構お金持ちだから」
そうなのである。実はエリス、例の成長促進剤の特許を取っている。特許収入だけで、一生遊んで暮らせるだけの金を稼いでいる。あの程度の大人買いなど使った内に入らない。
「これからカイには、うんと働いて貰うんだから、快適な住環境を用意するのは当然でしょ?」
それはヒモというのではないだろか...自分はそれに見合う働きが出来るのだろうか...カイは自信がなくなってきた。
「今日だって私を街まで運んでくれたじゃない? 柵作りだって手伝ってくれたし、もう既に感謝してもしきれないくらいなんだよ? カイにしか出来ない、他の誰にも真似出来ないことなんだよ?」
そこでエリスは一旦言葉を切った。そしてカイの目をじっと見詰めて、
「私には、カイが必要なんだよ?」
カイは瞠目した。そして涙が出そうになった。自分を必要としてくれる人が居る。その事が何より嬉しかった。
「ありがとう、エリス。僕、一生懸命頑張るよ。エリスが行きたいと言うなら、どんな所にだって乗せていってあげるよ」
そう言って笑ったカイの顔に、もう迷いはなかった。
◇◇◇
「さて、それじゃあ早速、カイの部屋を作りますかね」
カイの背に乗って小屋に戻ったエリスは、まるでおやつでも作るかのような軽い感じで言った。ここは元々、炭焼小屋だったこともあり、あまり広くない。エリスが一人で暮らす分には問題ないが、カイが一緒に住むとなると明らかに狭すぎる。
「初めは二階を作ろうかなって思ったんだけど、強度的に問題ありそうなんで、隣に作ることにしたんだ。こんな風にね」
すると、土を固めて煉瓦のようにして作った部屋が、小屋にピッタリと寄り添うような形で、あっという間に現れた。相変わらずとんでもない魔力量である。
「小屋と接するこの部分をスパッと切ってドアを付けて、ベッドはここ、ソファーはここ、テーブルはここね。箪笥をここに置くから後で服をしまって。あとそれから窓をくり貫いてカーテンを取り付けて、次は壁紙を...」
カイは自分の部屋が形になっていく様を、ただ呆然と見ているしかなかった。
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