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エリスとカイはクズが怒鳴り散らす様を呆れながら聞いていた。
「これ程のクズだったとは...ある意味想像以上だったよ...」
「そうでしょう? もう笑うしかないわよね」
「こんなクズなんかさっさと始末しちゃえばいいのにと思うけど、事はそう単純じゃないんだよね?」
エリスは肩を竦めて苦笑した。
「そうね。腐っても辺境伯だしね。とことん腐り切ってるけどね。私なら一人でもあの屋敷を簡単に制圧出来るけど、悔しいかな爵位はあのクズの方が上だから。私が直接手を下したことが国にバレると、最悪謀反を疑われちゃうかも知れないしね。クズを正式に裁くのは国の役人に任せようと思う」
「だから今は、バレないように回りくどいやり方でやるしかないんだね。ハァッ...貴族ってホント面倒だね...」
「まあでも、お仕置きと平行して領地改革を進められたしね。ここまで順調にいくとは思わなかったけど。街のみんなの笑顔が見れて嬉しかったよ。それにカイともこうやって出会えたしね。だから私、今とっても楽しいんだ。それに」
エリスは一旦言葉を切ってニヤリと笑いながら、
「これからもっと楽しくなるしね」
◇◇◇
マルクは疲れ切っていた。痒み止めをいくら飲んでも、一向に痒みは治まらない。金に飽かせて近隣の医者という医者を全て呼び寄せて治療を試みたが、誰一人として原因の究明にすら至らなかった。対策も対処療法、つまり痒み止めを処方するのみだった。
高い金を払っているのに役立たずな医者どもに腹を立て、暴力を振るったところ、その悪評が近隣の医者の間に広まり、治療を頼んでも誰一人として来てくれなくなった。完全に自業自得である。今や遠く離れた王都に居る医者を頼る他ないが、それもいつ来てくれるか分かったものではない。
せめてもの癒しを求めて、マルクは重い体を引き摺るように地下室へと向かった。拐って来た女達を抱いて現実逃避しようと思ったのだ。だが、
「な、なんだこれは!?」
地下室はもぬけの殻だった。
「おいっ! 誰か、誰かいないのかっ!?」
慌てて地下室を出たマルクは、屋敷を警備している護衛を大声で呼んだ...が、誰もやって来ない。それもそのはすで、既にこの時ほとんどの護衛が逃げ出していた。残ったのはほんの数名である。それも当然と言えよう。金で雇った者に忠誠心などあるはずもない。その事をマルクは知る由もなかった。
延々と怒鳴り続けていると、ようやく数少ない残った護衛が一人、重い足取りでやって来た。
「なんすか?」
これだけ呼んでやっと来たと思ったら、そのことを謝るどころか太々しい態度を取る護衛にまた腹が立ったが、そこはグッと堪えて詰問する。
「女どもが一人もいないぞっ! まさか逃がしたんじゃあるまいな!?」
「はぁ? んなもん、とっくに逃げてますよ。知らなかったんすか?」
「なんだとっ!? 聞いてないぞっ!?」
「じゃあ今聞きましたよね? それでいいっしょ?」
「貴様っ! さっきからその態度はなんだ!? 俺をバカにしてるのか!?」
「んなこと、どうでもいいじゃないっすか。用が済んだなら帰っていいすか?」
「待てっ! 女どもを連れ戻してくるんだっ!」
「お断りっすよ、そんな面倒なこと」
「貴様っ! クビにするぞ!?」
「どうぞご自由に。あ、ついさっき、みんな辞めて俺が最後の一人っすけど。あとはヨロシク。じゃあこれで」
「待て待て待て~! 最後の一人ってどういうことだ!? おい、待てったらっ!」
マルクの悲痛な叫びに答えることなく、護衛の最後の一人は屋敷を後にした。
「これ程のクズだったとは...ある意味想像以上だったよ...」
「そうでしょう? もう笑うしかないわよね」
「こんなクズなんかさっさと始末しちゃえばいいのにと思うけど、事はそう単純じゃないんだよね?」
エリスは肩を竦めて苦笑した。
「そうね。腐っても辺境伯だしね。とことん腐り切ってるけどね。私なら一人でもあの屋敷を簡単に制圧出来るけど、悔しいかな爵位はあのクズの方が上だから。私が直接手を下したことが国にバレると、最悪謀反を疑われちゃうかも知れないしね。クズを正式に裁くのは国の役人に任せようと思う」
「だから今は、バレないように回りくどいやり方でやるしかないんだね。ハァッ...貴族ってホント面倒だね...」
「まあでも、お仕置きと平行して領地改革を進められたしね。ここまで順調にいくとは思わなかったけど。街のみんなの笑顔が見れて嬉しかったよ。それにカイともこうやって出会えたしね。だから私、今とっても楽しいんだ。それに」
エリスは一旦言葉を切ってニヤリと笑いながら、
「これからもっと楽しくなるしね」
◇◇◇
マルクは疲れ切っていた。痒み止めをいくら飲んでも、一向に痒みは治まらない。金に飽かせて近隣の医者という医者を全て呼び寄せて治療を試みたが、誰一人として原因の究明にすら至らなかった。対策も対処療法、つまり痒み止めを処方するのみだった。
高い金を払っているのに役立たずな医者どもに腹を立て、暴力を振るったところ、その悪評が近隣の医者の間に広まり、治療を頼んでも誰一人として来てくれなくなった。完全に自業自得である。今や遠く離れた王都に居る医者を頼る他ないが、それもいつ来てくれるか分かったものではない。
せめてもの癒しを求めて、マルクは重い体を引き摺るように地下室へと向かった。拐って来た女達を抱いて現実逃避しようと思ったのだ。だが、
「な、なんだこれは!?」
地下室はもぬけの殻だった。
「おいっ! 誰か、誰かいないのかっ!?」
慌てて地下室を出たマルクは、屋敷を警備している護衛を大声で呼んだ...が、誰もやって来ない。それもそのはすで、既にこの時ほとんどの護衛が逃げ出していた。残ったのはほんの数名である。それも当然と言えよう。金で雇った者に忠誠心などあるはずもない。その事をマルクは知る由もなかった。
延々と怒鳴り続けていると、ようやく数少ない残った護衛が一人、重い足取りでやって来た。
「なんすか?」
これだけ呼んでやっと来たと思ったら、そのことを謝るどころか太々しい態度を取る護衛にまた腹が立ったが、そこはグッと堪えて詰問する。
「女どもが一人もいないぞっ! まさか逃がしたんじゃあるまいな!?」
「はぁ? んなもん、とっくに逃げてますよ。知らなかったんすか?」
「なんだとっ!? 聞いてないぞっ!?」
「じゃあ今聞きましたよね? それでいいっしょ?」
「貴様っ! さっきからその態度はなんだ!? 俺をバカにしてるのか!?」
「んなこと、どうでもいいじゃないっすか。用が済んだなら帰っていいすか?」
「待てっ! 女どもを連れ戻してくるんだっ!」
「お断りっすよ、そんな面倒なこと」
「貴様っ! クビにするぞ!?」
「どうぞご自由に。あ、ついさっき、みんな辞めて俺が最後の一人っすけど。あとはヨロシク。じゃあこれで」
「待て待て待て~! 最後の一人ってどういうことだ!? おい、待てったらっ!」
マルクの悲痛な叫びに答えることなく、護衛の最後の一人は屋敷を後にした。
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