上 下
15 / 22

第15話 ボルドー子爵邸での夜会

しおりを挟む
 夜会が開かれる前日、アイシャとトリシャはボルドー子爵邸に前乗りしていた。もちろん、ベルナンドとジルベルトの二人も一緒である。

 寄親と寄子という関係もあり、昔からボルドー子爵とは懇意にしている。今回の王子達の暴走に関して伝えると、我が事のように憤慨してくれて、何でも協力すると言ってくれた。

「招待状も出してないのに、直前になって参加を申し込んで来た家はありますの?」

「えぇ、一件だけございました。アルザス子爵家というところです。そこのご令嬢をお二人参加させたい旨、何故か王宮から連絡がありました」

「アルザス子爵家...すいません、私は存じ上げませんわ」

 アイシャが首を捻る。横でトリシャも同じポーズをしている。ボルドー子爵は苦虫を噛み潰したような顔で、

「ご存知ないのも無理はありません。既に没落した家ですから。私も同じ子爵位を賜る者として知っているという程度です」

「するとそのお二人は、爵位を詐称していることになりますわね」 

「お姉様、それって重罪じゃありませんか!?」

 トリシャの言う通り、爵位詐称は重罪だ。ヘタすれば絞首刑も有り得る。それ程貴族の身分とは重いものなのだ。詐称の指示を出したのが王子達だとすると、その証拠を掴み国王に突き付けられれば、今度こそただでは済むまい。

 王子達の廃嫡も有り得るだろう。どちらか一方か、あるいは両方ともか。王家にはまだ幼いが第三王子が居る。後継ぎは問題ない。国王が醜聞を恐れて二人とも廃嫡にする可能性は高そうだ。

 証拠が掴めればだが。

「恐らくですが、そのお二人は貴族の娘では無いでしょうね。貴族としての教育を受けている者なら、爵位を詐称することがどれだけ重い罪になるか良く知っているでしょうから。そんな危ない橋を渡るとはとても思えません」

「となると平民ということですか?」

「えぇ、それもキャバ嬢や娼婦など、殿方を誑し込むのに長けた方を送り込んで来たのでしょうね」

 誑し込むという言葉にベルナンドとジルベルトは身震いした。ターゲットは当然自分達なのだから。

「如何致しましょう?」

「参加を認めて下さい」

「よろしいのですか?」

「えぇ、構いません。格の違いを見せ付けてやりますわ」

 そう言って笑ったアイシャの顔はとても黒かった。


◇◇◇


 夜会当日、ベルナンドとジルベルトの二人は、わざとパートナーを伴わずやって来た。獲物を餌に食い付かせるためだ。案の定すぐに食い付いて来た。

「今晩わぁ~♪ 私ぃ~♪ アルザス子爵家のぅ~♪ アミって言います~♪」

「同じくユミで~す♪ よろしくね~♪」

 やたらと胸元が大きく開いた、スリットが太腿の先まで深く入った如何にも扇情的なドレスを着た二人が近付いて来た。

「ど、どうも。トーレス男爵家のベルナンドと言います」

「お、同じくジルベルトです」 
 
 波乱に満ちた夜会がスタートした。

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編完結】婚約破棄なら私の呪いを解いてからにしてください

未知香
恋愛
婚約破棄を告げられたミレーナは、冷静にそれを受け入れた。 「ただ、正式な婚約破棄は呪いを解いてからにしてもらえますか」 婚約破棄から始まる自由と新たな恋の予感を手に入れる話。 全4話で短いお話です!

【完結】義母が斡旋した相手と婚約破棄することになりまして。~申し訳ありませんが、私は王子と結婚します~

西東友一
恋愛
義母と義理の姉妹と暮らしていた私。 義母も義姉も義妹も私をイジメてきて、雑用ばかりさせてきましたが、 結婚できる歳になったら、売り払われるように商人と結婚させられそうになったのですが・・・・・・ 申し訳ありませんが、王子と結婚します。 ※※ 別の作品だと会話が多いのですが、今回は地の文を増やして一人の少女が心の中で感じたことを書くスタイルにしてみました。 ダイジェストっぽくなったような気もしますが、それも含めてコメントいただけるとありがたいです。 この作品だけ読むだけでも、嬉しいですが、他の作品を読んだり、お気に入りしていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

【完結】私は薬売り(男)として生きていくことにしました

雫まりも
恋愛
第三王子ウィリアムの婚約者候補の1人、エリザベートは“クソデブ”という彼の心無い言葉で振られ、自決を決意する。しかし、屋敷を飛び出し入った森で魔獣に襲われたところを助けられて生き延びてしまう。……それから10年後、彼女は訳あって薬売り(男)として旅をしていた。そんな旅のさなか、仲間に言い寄ってくる男とその付き添い、そして怪しげな魔術師の男も現れて……。 ーーーそれぞれが抱える悲劇の原因が元を辿れば同じだということにまだ気づく者はいない。 ※完結まで執筆済み。97+2話で完結予定です。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

婚約破棄されましたが全てが計画通りですわ~嵌められたなどと言わないでください、王子殿下。私を悪女と呼んだのはあなたですわ~

メルメア
恋愛
「僕は君のような悪女を愛せない」。 尊大で自分勝手な第一王子クラントから婚約破棄を告げられたマーガレット。 クラントはマーガレットの侍女シエルを新たな婚約者に指名する。 並んで立ち勝ち誇ったような笑顔を浮かべるクラントとシエルだったが、2人はマーガレットの計画通りに動いているだけで……。

【完結】地味と連呼された侯爵令嬢は、華麗に王太子をざまぁする。

佐倉穂波
恋愛
 夜会の最中、フレアは婚約者の王太子ダニエルに婚約破棄を言い渡された。さらに「地味」と連呼された上に、殺人未遂を犯したと断罪されてしまう。  しかし彼女は動じない。  何故なら彼女は── *どうしようもない愚かな男を書きたい欲求に駆られて書いたお話です。

【完結】悪役令嬢が起こした奇跡〜追放されたのに皆様がわたくしを探しているらしいですわ〜

ウミ
恋愛
 精霊の愛子が現れた。教会が権力を持ち始めていた時代、ルビーはそれを止めるために精霊の愛子が真名を名乗るのを防ぐ。しかし、婚約者だった皇子は精霊の愛子と結婚しようとし、ルビーは側室になれと父から命じられた。  父に認められるために、血反吐を吐くほど努力して勝ち取った座を、ルビーの苦労を父は最も簡単に投げ捨てたのだった。

処理中です...