上 下
3 / 6

3

しおりを挟む
「あぐ...」

 アストンの言う通りだった。婚約者であるアイリスを蔑ろにしてサリアを迎えに行ったイーサンは、なにも言えなくなって固まってしまった。

「えっ!? ちょ、ちょっとお父様! 本気で言ってんの!?」

 実の父親が家を捨てると言い出したアイリスもまた同じようにしばし固まっていたが、我に返って父親に問い質した。

「本気だとも。前々から考えてはいたんだ。あの王太子が時期国王になったら国が潰れるだろうとな。国王陛下には何度も具申したんだ。弟のフィリップ王子の方が時期国王には相応しいと。だが、国王とはいえやはり人の親ということか。長男を可愛がる傾向はついに変わらなかった。オマケに病床に伏してしまってからは弱気になる一方でな。ますます出来の悪い息子を甘やかすようになってしまった。それがあの体たらくだ」

「そうだったのね...でもお父様、国を出るということは爵位も領地も捨てるってことになるのよ? 本当にそれでいいの?」

「構わんさ。お前を追い出すようなこの国に未練なんかない。良い機会だ。爵位も領地も捨ててお前と二人で暮らすというのも悪くない」

「お父様...」

 アイリスは感極まって涙を溢していた。

「さぁ、行こうか。アイリス」

「はい、お父様」

 アイリスは父親と腕を組み、その場を後にしようとしたが、

「待て待て待て~い!」

 イーサンに呼び止められた。

「まだなにか?」

「お前ら本気か!? いや正気か!? なんでそんな簡単に国を捨てられるんだ!?」

「聞いてなかったんですか? あなたが王位に就いたらこの国はおしまいだからですよ?」

「ふざけるなぁ! 俺をバカにするのかぁ!」

「バカにするもなにもバカそのものじゃないですか? ひょっとして自覚が無いんですか?」

 あくまでもアストンは冷静に言い放った。

「き、貴様ぁ! 不敬であるぞぉ~!」

「もうあなたは私の主君じゃないし、私もあなたの臣下ではないんだから、不敬もなにも無いでしょうよ。そんなことも分からない程バカなんですか?」

 アストンは侮蔑するような表情を浮かべてそう言った。

「ぬなぁ!?」

 正論で諭されてイーサンは言葉を失くした。

「あぁ、そうそう。当然ながら我が家お抱えの傭兵団も解散しますんで、これから国防の方は自前の騎士団でせいぜい頑張ることですね」

 そうアストンに言われたイーサンは顔面蒼白になった。アストンの公爵家が抱える傭兵団は国防の要だ。

 隣国と絶えず小競合いを繰り返している昨今、公爵家の傭兵団は王家の騎士団と協力して隣国の脅威と戦っているが、練度の方は圧倒的に傭兵団の方が高い。その傭兵団が失くなるということは国防の危機である。イーサンは焦り捲った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

【完結】それではご機嫌よう、さようなら♪

山葵
恋愛
「最後まで可愛げの無い女だ。さっさと荷物を纏めて出ていけ!」 夫であったマウイに離縁を言い渡され、有無を言わさず離婚届にサインをさせられた。 屋敷の使用人達は絶句し、動けないでいる。 「おいビルダ!何を呆けているのだ。この届けを直ぐに役所に届けろ」 「旦那様、本当に宜しいのですか?」 「宜しいに決まっているだろう?ああそうだ。離婚届を出した序でに婚姻届を貰ってきてくれ。ライナが妊娠したから早急に籍を入れる予定だ。国王陛下に許可をしてくれる様に手紙も頼む」 私はビルダと共に部屋を出る。 その顔はきっと喜びで微笑んでいただろう。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

(完結)あなたの愛は諦めました (全5話)

青空一夏
恋愛
私はライラ・エト伯爵夫人と呼ばれるようになって3年経つ。子供は女の子が一人いる。子育てをナニーに任せっきりにする貴族も多いけれど、私は違う。はじめての子育ては夫と協力してしたかった。けれど、夫のエト伯爵は私の相談には全く乗ってくれない。彼は他人の相談に乗るので忙しいからよ。 これは自分の家庭を顧みず、他人にいい顔だけをしようとする男の末路を描いた作品です。 ショートショートの予定。 ゆるふわ設定。ご都合主義です。タグが増えるかもしれません。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

処理中です...