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「あぐ...」
アストンの言う通りだった。婚約者であるアイリスを蔑ろにしてサリアを迎えに行ったイーサンは、なにも言えなくなって固まってしまった。
「えっ!? ちょ、ちょっとお父様! 本気で言ってんの!?」
実の父親が家を捨てると言い出したアイリスもまた同じようにしばし固まっていたが、我に返って父親に問い質した。
「本気だとも。前々から考えてはいたんだ。あの王太子が時期国王になったら国が潰れるだろうとな。国王陛下には何度も具申したんだ。弟のフィリップ王子の方が時期国王には相応しいと。だが、国王とはいえやはり人の親ということか。長男を可愛がる傾向はついに変わらなかった。オマケに病床に伏してしまってからは弱気になる一方でな。ますます出来の悪い息子を甘やかすようになってしまった。それがあの体たらくだ」
「そうだったのね...でもお父様、国を出るということは爵位も領地も捨てるってことになるのよ? 本当にそれでいいの?」
「構わんさ。お前を追い出すようなこの国に未練なんかない。良い機会だ。爵位も領地も捨ててお前と二人で暮らすというのも悪くない」
「お父様...」
アイリスは感極まって涙を溢していた。
「さぁ、行こうか。アイリス」
「はい、お父様」
アイリスは父親と腕を組み、その場を後にしようとしたが、
「待て待て待て~い!」
イーサンに呼び止められた。
「まだなにか?」
「お前ら本気か!? いや正気か!? なんでそんな簡単に国を捨てられるんだ!?」
「聞いてなかったんですか? あなたが王位に就いたらこの国はおしまいだからですよ?」
「ふざけるなぁ! 俺をバカにするのかぁ!」
「バカにするもなにもバカそのものじゃないですか? ひょっとして自覚が無いんですか?」
あくまでもアストンは冷静に言い放った。
「き、貴様ぁ! 不敬であるぞぉ~!」
「もうあなたは私の主君じゃないし、私もあなたの臣下ではないんだから、不敬もなにも無いでしょうよ。そんなことも分からない程バカなんですか?」
アストンは侮蔑するような表情を浮かべてそう言った。
「ぬなぁ!?」
正論で諭されてイーサンは言葉を失くした。
「あぁ、そうそう。当然ながら我が家お抱えの傭兵団も解散しますんで、これから国防の方は自前の騎士団でせいぜい頑張ることですね」
そうアストンに言われたイーサンは顔面蒼白になった。アストンの公爵家が抱える傭兵団は国防の要だ。
隣国と絶えず小競合いを繰り返している昨今、公爵家の傭兵団は王家の騎士団と協力して隣国の脅威と戦っているが、練度の方は圧倒的に傭兵団の方が高い。その傭兵団が失くなるということは国防の危機である。イーサンは焦り捲った。
アストンの言う通りだった。婚約者であるアイリスを蔑ろにしてサリアを迎えに行ったイーサンは、なにも言えなくなって固まってしまった。
「えっ!? ちょ、ちょっとお父様! 本気で言ってんの!?」
実の父親が家を捨てると言い出したアイリスもまた同じようにしばし固まっていたが、我に返って父親に問い質した。
「本気だとも。前々から考えてはいたんだ。あの王太子が時期国王になったら国が潰れるだろうとな。国王陛下には何度も具申したんだ。弟のフィリップ王子の方が時期国王には相応しいと。だが、国王とはいえやはり人の親ということか。長男を可愛がる傾向はついに変わらなかった。オマケに病床に伏してしまってからは弱気になる一方でな。ますます出来の悪い息子を甘やかすようになってしまった。それがあの体たらくだ」
「そうだったのね...でもお父様、国を出るということは爵位も領地も捨てるってことになるのよ? 本当にそれでいいの?」
「構わんさ。お前を追い出すようなこの国に未練なんかない。良い機会だ。爵位も領地も捨ててお前と二人で暮らすというのも悪くない」
「お父様...」
アイリスは感極まって涙を溢していた。
「さぁ、行こうか。アイリス」
「はい、お父様」
アイリスは父親と腕を組み、その場を後にしようとしたが、
「待て待て待て~い!」
イーサンに呼び止められた。
「まだなにか?」
「お前ら本気か!? いや正気か!? なんでそんな簡単に国を捨てられるんだ!?」
「聞いてなかったんですか? あなたが王位に就いたらこの国はおしまいだからですよ?」
「ふざけるなぁ! 俺をバカにするのかぁ!」
「バカにするもなにもバカそのものじゃないですか? ひょっとして自覚が無いんですか?」
あくまでもアストンは冷静に言い放った。
「き、貴様ぁ! 不敬であるぞぉ~!」
「もうあなたは私の主君じゃないし、私もあなたの臣下ではないんだから、不敬もなにも無いでしょうよ。そんなことも分からない程バカなんですか?」
アストンは侮蔑するような表情を浮かべてそう言った。
「ぬなぁ!?」
正論で諭されてイーサンは言葉を失くした。
「あぁ、そうそう。当然ながら我が家お抱えの傭兵団も解散しますんで、これから国防の方は自前の騎士団でせいぜい頑張ることですね」
そうアストンに言われたイーサンは顔面蒼白になった。アストンの公爵家が抱える傭兵団は国防の要だ。
隣国と絶えず小競合いを繰り返している昨今、公爵家の傭兵団は王家の騎士団と協力して隣国の脅威と戦っているが、練度の方は圧倒的に傭兵団の方が高い。その傭兵団が失くなるということは国防の危機である。イーサンは焦り捲った。
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