上 下
20 / 28

第20話

しおりを挟む
 次の打ち合わせはまた一週間後ということで、その日はお開きとなった。

「あ、アズミ。ちょっといいかい?」

 会議室を出ようとしたアズミをハインツが呼び止める。

「なんでしょう?」

「ほら、一度お流れになっちゃった最高級ホテルの最上階、展望レストランでのディナーの件だけど、あれからバタバタしちゃってまだ行けてないだろ? 明日なんかどうかな? 予約入れてあるんだ。今度こそ二人でゆっくりと楽しもう?」

「まぁ! 嬉しいですわ! もちろんですとも! 楽しみにしておりますわね!」

 アズミは喜色満面で頷いた。


◇◇◇


 次の日の夜、完璧にドレスアップしたアズミをハインツが迎えに来た。前回、ハインツは無理に予定を入れ込んだので直前まで公務に追われ、アズミを迎えに行く時間が取れなかったが、今回はたっぷりと時間に余裕がある。

「アズミ...綺麗だよ...とても素敵だ...」

 ハインツはドレスアップしたアズミを見て、恍惚とした表情を浮かべながらそう言って馬車へとエスコートした。

「ありがとうございます。ハインツ様もとても凛々しいですわよ」

 アズミは頬を赤く染めながら照れ臭そうに微笑んだ。

 馬車で走ること約10分、二人は王都の最高級ホテルに到着した。ハインツが先に馬車から降りてアズミをエスコートする。

 二人は腕を組んで和やかに会話を交わしながら魔道エレベーターに乗り、最上階の展望レストランへと向かった。そこで絶句した...

「あらあらあらっ! まぁまぁまぁまぁっ! ハインツ殿下にアズミ様! 偶然でございますわねぇ! お二人も今夜はここでお食事ですの!? もしよろしかったらご一緒しませんこと!? 私、一人っきりで食事をするつもりでしたが、やっぱり一人は寂しくて...たまたまここでお会いしたのも何かのご縁! 是非ともご一緒させて下さいませ! ね? ねっ? ねぇっ?」
  
 レストランの入口にチリーヌ王女が待ち構えるようして立っていたのだ。

 アズミとハインツは訳が分からなかった。そもそもこのレストランは一人で食事に来るような所ではない。

 偶然? たまたま? 有り得ない! どう見ても狙って二人の邪魔をしに来たとしか思えない! 間違いなくそう思ったが、相手の立場上無下にする訳にも行かず...

「え、えぇ、そうですね...」

 ハインツは渋々そう答えるしかなかった。

 結果、気不味い雰囲気の中、三人でテーブルを囲むことになった。運ばれて来るのはどれも美味しい料理のはずなのだが...

 アズミには全く味がしないように感じられた夜だった...
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放令嬢は六月の花嫁として隣国公爵に溺愛される

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「えぇいっ! オレは聖女リカコとの真実の愛に目覚めたのだっ。婚約は破棄。セリカ・アーカディア嬢、今日をもって我がメサイア国から追放だっ」 「捕えろ! セリカ嬢を国外へっ」 「きゃはは! 国外追放、おめでとう! けど、果たして標本の檻から逃げられるかなぁ? セリカさまぁ」 (良かった。お母様達の本当の確執がバレなくて……) 青い蝶々のように麗しいと評判の公爵令嬢セリカ・アーカディアは、母親同士が姉妹のように育ったという新興国家メサイア国の王太子と婚約していた。だが、異世界より現れた聖女リカコの策略にハマり、国外へと追放されてしまう。だが、殆どの者は知らなかった。噂以上の確執が、セリカと王太子の母親同士にあるということに。 * 六月の花嫁を題材にした作品です。 * 序章追加。過去編イリスsideが全11話、前世編セリカsideを数話予定しております。 * この作品はアルファポリスさん、小説家になろうさんに投稿しております。

椅子は凶器ですか?

ひづき
恋愛
とある人物を探しに廃墟と化している離宮に来た兄弟。 長い髪の女が兵士を椅子で殴り飛ばしたところに遭遇しました。 「ギャアアアアア!オバケー!!」 「誰がよ、誰が!!」 ※残酷な表現、暴力的な表現を含みます

嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜

悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜 嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。 陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。 無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。 夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。 怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……

悪役令嬢のわたしが婚約破棄されるのはしかたないことだと思うので、べつに復讐したりしませんが、どうも向こうがかってに破滅してしまったようです。

草部昴流
ファンタジー
 公爵令嬢モニカは、たくさんの人々が集まった広間で、婚約者である王子から婚約破棄を宣言された。王子はその場で次々と捏造された彼女の「罪状」を読み上げていく。どうやら、その背後には異世界からやって来た少女の策謀があるらしい。モニカはここで彼らに復讐してやることもできたのだが――あえてそうはしなかった。なぜなら、彼女は誇り高い悪役令嬢なのだから。しかし、王子たちは自分たちでかってに破滅していったようで? 悪役令嬢の美しいあり方を問い直す、ざまぁネタの新境地!!!

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

処理中です...