上 下
31 / 83

31

しおりを挟む
 昼食の席で、

「聖女様、この後のご予定はどうなっておりますか?」

「...この町の教会に赴き、祈りを捧げる予定です」

「なるほど。ではその後は?」

「...この町の孤児院に赴き、祝福を与えたいと思います」

「そうですか...ではその後は?」

「...伯爵様が歓迎の式典を開いて下さるそうですので、そちらに出席する予定です」

「そうなんですね...」

 フウッ...しつこいな...このカールって男、なんとかして私と二人っきりになろうと必死だな。まぁでも、こうやって聖女としての公式行事を熟している限り、私の周りには同行して来た神官達や聖女見習い達が居るから心配は無い。問題は夜だよね...

 私達が行事を熟している間、カールはまるで監視するかのようにずっと付いて来ていた。本当にウザいったらない。かといって付いて来るなと言える立場じゃないし、気持ち悪いけど我慢するしかない。


◇◇◇


「聖女様、こちらにいらしたのですね」

 その日の夜、歓迎式典のパーティーで人がごった返していたので、私はそれとなくカールから距離を取っていたのだが、ついに捕まってしまった。カクテルグラスを両手に持ち近付いて来る。

「一杯如何でしょうか?」

 そのグラスの中に何が入っているのか、心の声を聞くまでもない。

「せっかくですが、申し訳ありません。現在、私は聖女としての修行の一環であるアマダンの時期でして。その期間中は嗜好品を口に入れることが出来ません。何卒ご理解下さいませ」

「そうなんですか...残念です...」

 もちろん大嘘である。そんな時期なんて無いし、最初の乾杯の時からガバガバ飲んでる。

「ではあちらでお茶でも如何でしょうか? お茶は構わないんですよね?」

「いえ、お茶も嗜好品の一種ですから飲む訳には参りません。せっかくのお申し出ですが、お断りさせて頂きます。私、ちょっと疲れましたんで、部屋に戻らせて頂きますね」

「そうですか。では部屋までお送り致しましょう」

「いえいえ、ホストであられるカール様のお手を煩わすのは恐縮ですので結構です。私は一人でも大丈夫ですので」

「いえいえいえ、聖女様に何かあっては大変ですので、私めがちゃんとご案内させて頂きます」

 しつこい! いっそ蹴り飛ばしてやろうか! そんな切れそうになった私の目に、ちょうど一緒に来ていた神官の姿が映った。

「神官様にご一緒して頂きますからご安心を。カール様はどうぞパーティーにお戻り下さい。神官様! 私、ちょっと疲れましたんで部屋に戻りたいと思います。ご一緒して頂けますか?」

「畏まりました、聖女様」

 神官の一人とパーティー会場から離れる際、カールが嫌らしい目で見ていたのに気付いた。これまた心の声を聞くまでもない。だから私は、

「神官様、一つお願いがあるのですが...」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!

真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」  皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。  ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??  国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...