乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています

真理亜

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第161話 第三者視点 風竜の試練 その5

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「あ、あの...風竜様!?」

 沈黙に耐え兼ねてアリシアが恐る恐る尋ねる。

『...邪竜の気配が消えた。そなたが浄化したんじゃな...』

 ややあって風竜がそう言った。

「クルル」

 メルが静かに答える。

『...やはりな...感謝する...』

「クルル」

 アリシアはそんな風竜とメルのやり取りを、訳が分からずただ側で眺めていた。するとそんなアリシアを気遣ってか、風竜が重い口を開いた。

『...あの邪竜は我の番であった...』

「えっ!? 番って...結婚相手ってことですよね!? 風竜様と邪竜が!?」

 アリシアは信じられない思いでそう言った。

『...当時は邪竜などではなかった...我と同じ風竜だったのだよ...』

「そうだったんですね...」

『...その後、闇に堕ちてしまったがな....我にはどうすることも出来なかった...』

 風竜は思い出しているのだろう。辛そうにそう言った。

『...我に出来たのは神々に協力してヤツを封印することだけだった...』

 アリシアは言葉にならなかった。自分の愛する者を封印するって...一体どれだけ辛い決断だったことだろうか...

『...我がこの地に留まっておったのは、封印が解けないように見張るということ、それともう一つ贖罪の意味もあったのだよ...我が付いていたにも関わらず、闇に落ちるのを止められなかったことに対してな...それが番たる我に課せられた責務だと思っていた...』

「じゃ、じゃあひょっとしてメルが浄化しなかったら...」

『...うむ、我はこれからもずっと見張っていたことだろうな...だからこそ感謝しておる...これで我も解放された...もう思い残すことは何も無い...』

「風竜様...」

 アリシアは我知らず涙を流していた。

『長々と話を聞いてくれてありがとう。試練を乗り越えた褒美も含めて、帰りは我が送ってやろう』

 風竜がそう言うと、アリシアの視界が真っ白い光で覆い尽くされた。眩しさに思わず目を閉じたアリシアが再び目を開けるとそこは...

「アリシア!?」

 風竜と初めて出会った湖だった。いきなり現れたアリシアにミナ達が呆然としている中、アリシアは真っ先に動いてエリオットの胸に飛び込んだ。そして声を上げて号泣した。

「あ、アリシア!? だ、大丈夫かい!?」

 戸惑いながらもアリシアを抱き締めたエリオットは、ずっと泣き続けているアリシアの耳元で、

「お帰り。無事で良かった...」

 そう優しく囁いたのだった。
 
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