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第23話 ちみっこと夏休み その3
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リザードマンの攻撃は熾烈を極めた。
一頭一頭の攻撃はミノタウロス程じゃないが、とにかく数が多い。しかもデカイ割に動きが素早い。油断するとアタシの土壁をジャンプして乗り越えようとする。強度と高さにも気を配わねばならない。
アタシは歯を食い縛って耐える。振り向く余裕も無いが、きっと後ろではみんなアタシよりもっと頑張ってるはず。だからアタシもこんなトカゲ野郎に負けて堪るかっ!
...ん? トカゲ? 見掛けはゴツくて強そうだが、コイツらの本質はトカゲってことは...もしかしたらイケるかも知れない?
このまま耐えていてもジリ貧だ。だったら勝負を掛けるしかない! 一人抜けることで向こうの戦線が崩壊するかも知れない。呼んでもすぐ来れないかも知れない。だからこれは賭けだ。
「エリオットッ~~~!」
アタシは振り向かず叫ぶ。この世界のトカゲも変温動物ならきっと、エリオットの力が有効なはず。
「ミナっ! どうしたっ!?」
エリオットが来てくれた。アタシはトカゲから目を離さず叫ぶ。
「コイツらトカゲだから寒さに弱いはずっ! 凍らせちゃってっ!」
「なるほどっ! 分かったっ!」
『ヘルブリザード!』
エリオットが呪文を唱えた瞬間、トカゲ野郎共が全て凍り付いた。良しっ! 狙い通りっ!
「エリオット、ありがと...!?」
その時、初めてエリオットの顔を見たアタシまで凍り付いた。エリオットの顔半分が血に染まっていたからだ。
「エリオットっ! 大丈夫!? 頭をやられたの!? すぐにこれ飲んでっ!」
アタシはリュックから急いでポーションを取り出し飲ませる。
「済まない...ありがとう...」
「いいから、ここで休んでて!」
そして振り返ったアタシは凄惨な光景を目にする。
「うっ!」
アルベルト殿下は腹を抑えて踞っている。かなり出血してるようだ。その横でシャロン様は足から血を流して横たわっている。アリシアは全身血塗れでミノタウロスの最後の一頭と渡り合っている。その隣でシルベスターがやはり血塗れになってガードしている。
アタシは唇を噛み締める。血の味がした。やっぱり犠牲が...いや、まだだ! 殿下もシャロン様もまだ息がある! 自分を責めるのは後だ! まずはこの状況をなんとかしないと!
アタシは急いで殿下とシャロン様の元に駆け付け、ポーションを取り出す。
「殿下、シャロン様、急いでこれを飲んでっ!」
「「 ありがとう... 」」
二人から弱々しい返事が返って来る。このまま側に居てやりたいが、まずは最後の敵を倒さないと!
「スライっ! ガードは私がやるからアリシアに加勢してっ! 二人とも、あともうひと踏ん張り! 絶対に勝つよっ!」
「「 応っ! 」」
ミノタウロスの最後の一頭は、その後間も無く地に伏した。
◇◇◇
「殿下、シャロン様、ヒールを掛けておきますね。それにエリオットも」
「いや、アリシア。ありがたいがまずは自分の体を治してからにしてくれ」
「そうですよ、アリシアさんの方が重傷じゃありません?」
「アリシア、まずはポーションを飲んでからにしよう」
「あぁ、いえいえ、見た目ほど酷い怪我じゃないんで大丈夫ですよ」
怪我人の治療をアリシアに任せて、アタシはトカゲの後始末をする。凍っているトカゲを杖で片っ端からぶん殴る簡単なお仕事だ。杖は打撃武器としても使える。
叩いて粉々になったトカゲから魔石を回収する。これは冒険者ギルドに売れるから、冒険者登録したら売って小遣い稼ぎしようと思ってる。あ、もちろん全員で折半するよ。
向こうではシルベスターがミノタウロスの魔石を回収してる。
「スライ、回収終わった?」
「うん、ミナの方も?」
「うん、終わった。後でみんなで分けようね」
さて、魔石も回収し終えてこれからどうしようかって話になった。傷を塞いでも流れ出た血は元に戻らない。現に出血の多かった殿下、シャロン様、エリオットの三人の顔色は青いままだ。
アリシアとシルベスターは傷がそれ程深くなかったようで、少し疲れた顔してるが大丈夫そうだ。アタシだけほとんど無傷で申し訳ない...
結局、先に進むことにした。まずは全員が落ち着いて休める場所に移動する。ここに居るとまた挟撃されるかも知れないから。この先に広い空間があるみたいなんで、そこを目指す。
殿下にはシルベスターが、シャロン様にはアタシが、エリオットにはアリシアがそれぞれ手を貸して進む。やがて辿り着いた場所は圧巻の一言だった。
頭上を見上げても、どれくらいの高さがあるのか検討がつかない程高い。横幅も奥行も悠に100mを超えるだろう。地下の巨大空間を目にして、しばし全員の目が点になった。
「凄い...精霊王の祠の地下ダンジョンにあったボス部屋より広いんじゃないか?」
殿下が言うとシャロン様、エリオット、シルベスターの三人が「あぁ、確かに...」とか言ってるが、アタシとアリシアは何の事だか分からずポカンとする。
「まぁ、取り敢えずここなら挟撃の心配は無いんで少し休むか」
殿下の一言で全員が輪になって座り込む。水と携帯食料を口にしながら、先の戦いを振り返る。
「しかし、これほど王都に近いダンジョンに、あのクラスの魔獣が出るというのは問題では有りませんか?」
エリオットが問題提起する。確かにそうだよね。初心者向けダンジョンどころじゃなかったもん。
「あぁ、確かに問題だな。例の闇の眷族とやらが関わってるのかも知れんし、報告として上げておこう。だがまずはお礼を言わせてくれ。ミナのお陰で助かった。本当にありがとう」
いきなり殿下が頭を下げる。いやいやいや、待って待って待って! 王族に頭を下げさせたりなんかしたら、アタシ不敬を問われるんじゃないの!?
「で、殿下! あ、頭を上げて下さい! 私も夢中だったんで色々と失礼があったかも知れませんし、皆さんにお詫びしなきゃと思ってるくらいなんですから!」
「いや、これは俺だけじゃなく、みんなそう思ってるはずだぞ?」
「えぇ、私もそう思いますわ。ミナさんが居なかったら、私達全員生きてここに居ないと思いますもの。命の恩人ですわ。心より感謝申し上げます」
「ミナの指示は実に的確だったよ。特にリザードマンの属性の弱点を突いたのは見事としか言い様が無かった。僕は君を誇りに思うよ」
「ボクは...自分が情けないよ...実は最初、怖くて体が動かなかったんだ...でもミナの声を聞いてやっと体が動くようになった。ミナは凄いよ...ボクは自分のことだけで精一杯だったのに、ミナは全体を見て指示を出しながら、自分は常に一番危険な所に身を置く。簡単に出来ることじゃない。尊敬に値すると思う。ボクは...いつかミナのようになりたい...ミナの隣に胸張って立てるよう、これからもっともっと頑張るよ!」
「私もミナの叱咤激励で最後の力を絞り出せたと思うよ。正直、最後の方はバテバテだったからさ。私も含めてみんなを守ってくれてありがとね」
止めてくれ~! 誉められるの慣れて無いんだからさぁ~ アタシの顔は今きっと真っ赤になってるはず。それにシルベスターはいくらなんでも持ち上げ過ぎだと思う。
相手の属性に助けられた部分も大きいんだから。そう、運が良かっただけなんだよ。アタシの実力とかじゃなく、みんながそれぞれ頑張った結果なんだから。
「ホラな、みんなも同じ気持ちだったろ? そこでだ、パーティーリーダーとしてみんなに提言したい。新しいリーダーとしてミナを指名したいと思うがどうだろうか?」
「「「「「 異議無しっ! 」」」」
「いやいやいや、異議有りでしょ! なんでみんな即答なの!?」
おかしいって! なんだこの流れは!?
「いや、即答しかないでしょ」
「右に同じ」
「左に同じ」
「上に同じ」
なんだそのコントみたいなノリは!? アタシが抗議しようとした時だった。
ズンッ
ズズンッ
ダンジョンの地面を揺らしながらゆっくり近付いて来るのは...
まさか!?
一頭一頭の攻撃はミノタウロス程じゃないが、とにかく数が多い。しかもデカイ割に動きが素早い。油断するとアタシの土壁をジャンプして乗り越えようとする。強度と高さにも気を配わねばならない。
アタシは歯を食い縛って耐える。振り向く余裕も無いが、きっと後ろではみんなアタシよりもっと頑張ってるはず。だからアタシもこんなトカゲ野郎に負けて堪るかっ!
...ん? トカゲ? 見掛けはゴツくて強そうだが、コイツらの本質はトカゲってことは...もしかしたらイケるかも知れない?
このまま耐えていてもジリ貧だ。だったら勝負を掛けるしかない! 一人抜けることで向こうの戦線が崩壊するかも知れない。呼んでもすぐ来れないかも知れない。だからこれは賭けだ。
「エリオットッ~~~!」
アタシは振り向かず叫ぶ。この世界のトカゲも変温動物ならきっと、エリオットの力が有効なはず。
「ミナっ! どうしたっ!?」
エリオットが来てくれた。アタシはトカゲから目を離さず叫ぶ。
「コイツらトカゲだから寒さに弱いはずっ! 凍らせちゃってっ!」
「なるほどっ! 分かったっ!」
『ヘルブリザード!』
エリオットが呪文を唱えた瞬間、トカゲ野郎共が全て凍り付いた。良しっ! 狙い通りっ!
「エリオット、ありがと...!?」
その時、初めてエリオットの顔を見たアタシまで凍り付いた。エリオットの顔半分が血に染まっていたからだ。
「エリオットっ! 大丈夫!? 頭をやられたの!? すぐにこれ飲んでっ!」
アタシはリュックから急いでポーションを取り出し飲ませる。
「済まない...ありがとう...」
「いいから、ここで休んでて!」
そして振り返ったアタシは凄惨な光景を目にする。
「うっ!」
アルベルト殿下は腹を抑えて踞っている。かなり出血してるようだ。その横でシャロン様は足から血を流して横たわっている。アリシアは全身血塗れでミノタウロスの最後の一頭と渡り合っている。その隣でシルベスターがやはり血塗れになってガードしている。
アタシは唇を噛み締める。血の味がした。やっぱり犠牲が...いや、まだだ! 殿下もシャロン様もまだ息がある! 自分を責めるのは後だ! まずはこの状況をなんとかしないと!
アタシは急いで殿下とシャロン様の元に駆け付け、ポーションを取り出す。
「殿下、シャロン様、急いでこれを飲んでっ!」
「「 ありがとう... 」」
二人から弱々しい返事が返って来る。このまま側に居てやりたいが、まずは最後の敵を倒さないと!
「スライっ! ガードは私がやるからアリシアに加勢してっ! 二人とも、あともうひと踏ん張り! 絶対に勝つよっ!」
「「 応っ! 」」
ミノタウロスの最後の一頭は、その後間も無く地に伏した。
◇◇◇
「殿下、シャロン様、ヒールを掛けておきますね。それにエリオットも」
「いや、アリシア。ありがたいがまずは自分の体を治してからにしてくれ」
「そうですよ、アリシアさんの方が重傷じゃありません?」
「アリシア、まずはポーションを飲んでからにしよう」
「あぁ、いえいえ、見た目ほど酷い怪我じゃないんで大丈夫ですよ」
怪我人の治療をアリシアに任せて、アタシはトカゲの後始末をする。凍っているトカゲを杖で片っ端からぶん殴る簡単なお仕事だ。杖は打撃武器としても使える。
叩いて粉々になったトカゲから魔石を回収する。これは冒険者ギルドに売れるから、冒険者登録したら売って小遣い稼ぎしようと思ってる。あ、もちろん全員で折半するよ。
向こうではシルベスターがミノタウロスの魔石を回収してる。
「スライ、回収終わった?」
「うん、ミナの方も?」
「うん、終わった。後でみんなで分けようね」
さて、魔石も回収し終えてこれからどうしようかって話になった。傷を塞いでも流れ出た血は元に戻らない。現に出血の多かった殿下、シャロン様、エリオットの三人の顔色は青いままだ。
アリシアとシルベスターは傷がそれ程深くなかったようで、少し疲れた顔してるが大丈夫そうだ。アタシだけほとんど無傷で申し訳ない...
結局、先に進むことにした。まずは全員が落ち着いて休める場所に移動する。ここに居るとまた挟撃されるかも知れないから。この先に広い空間があるみたいなんで、そこを目指す。
殿下にはシルベスターが、シャロン様にはアタシが、エリオットにはアリシアがそれぞれ手を貸して進む。やがて辿り着いた場所は圧巻の一言だった。
頭上を見上げても、どれくらいの高さがあるのか検討がつかない程高い。横幅も奥行も悠に100mを超えるだろう。地下の巨大空間を目にして、しばし全員の目が点になった。
「凄い...精霊王の祠の地下ダンジョンにあったボス部屋より広いんじゃないか?」
殿下が言うとシャロン様、エリオット、シルベスターの三人が「あぁ、確かに...」とか言ってるが、アタシとアリシアは何の事だか分からずポカンとする。
「まぁ、取り敢えずここなら挟撃の心配は無いんで少し休むか」
殿下の一言で全員が輪になって座り込む。水と携帯食料を口にしながら、先の戦いを振り返る。
「しかし、これほど王都に近いダンジョンに、あのクラスの魔獣が出るというのは問題では有りませんか?」
エリオットが問題提起する。確かにそうだよね。初心者向けダンジョンどころじゃなかったもん。
「あぁ、確かに問題だな。例の闇の眷族とやらが関わってるのかも知れんし、報告として上げておこう。だがまずはお礼を言わせてくれ。ミナのお陰で助かった。本当にありがとう」
いきなり殿下が頭を下げる。いやいやいや、待って待って待って! 王族に頭を下げさせたりなんかしたら、アタシ不敬を問われるんじゃないの!?
「で、殿下! あ、頭を上げて下さい! 私も夢中だったんで色々と失礼があったかも知れませんし、皆さんにお詫びしなきゃと思ってるくらいなんですから!」
「いや、これは俺だけじゃなく、みんなそう思ってるはずだぞ?」
「えぇ、私もそう思いますわ。ミナさんが居なかったら、私達全員生きてここに居ないと思いますもの。命の恩人ですわ。心より感謝申し上げます」
「ミナの指示は実に的確だったよ。特にリザードマンの属性の弱点を突いたのは見事としか言い様が無かった。僕は君を誇りに思うよ」
「ボクは...自分が情けないよ...実は最初、怖くて体が動かなかったんだ...でもミナの声を聞いてやっと体が動くようになった。ミナは凄いよ...ボクは自分のことだけで精一杯だったのに、ミナは全体を見て指示を出しながら、自分は常に一番危険な所に身を置く。簡単に出来ることじゃない。尊敬に値すると思う。ボクは...いつかミナのようになりたい...ミナの隣に胸張って立てるよう、これからもっともっと頑張るよ!」
「私もミナの叱咤激励で最後の力を絞り出せたと思うよ。正直、最後の方はバテバテだったからさ。私も含めてみんなを守ってくれてありがとね」
止めてくれ~! 誉められるの慣れて無いんだからさぁ~ アタシの顔は今きっと真っ赤になってるはず。それにシルベスターはいくらなんでも持ち上げ過ぎだと思う。
相手の属性に助けられた部分も大きいんだから。そう、運が良かっただけなんだよ。アタシの実力とかじゃなく、みんながそれぞれ頑張った結果なんだから。
「ホラな、みんなも同じ気持ちだったろ? そこでだ、パーティーリーダーとしてみんなに提言したい。新しいリーダーとしてミナを指名したいと思うがどうだろうか?」
「「「「「 異議無しっ! 」」」」
「いやいやいや、異議有りでしょ! なんでみんな即答なの!?」
おかしいって! なんだこの流れは!?
「いや、即答しかないでしょ」
「右に同じ」
「左に同じ」
「上に同じ」
なんだそのコントみたいなノリは!? アタシが抗議しようとした時だった。
ズンッ
ズズンッ
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まさか!?
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