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第21話 ちみっこと夏休み その1

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 夏休みに入った。


 この世界の夏休みは前世の日本とほぼ同じで一ヶ月強だ。アタシの実家は王都から馬車で約三日掛かる田舎なので、強化合宿がある今年は帰省するつもりは無い。

 行ったり来たり面倒だし。それに警備の都合もある。国としてはなるべくアタシを自分達の目の届く場所、つまり王都から離したくないみたい。過保護だよね~

 まぁ、家族とは例の『精霊の愛し子』騒動の時に会ってるし、特に寂しいとかは無いんだけど。それと合宿に参加するアリシア含めて、帰省せず寮に残る子は何人か居るから、一人っきりって訳でもないしさ。

 ただマリーに関しては申し訳無いと思ってるんだよね。アタシのせいで夏休み無しなんだもん。

「ねえマリー」

「なんでしょうか?」

「もしね、あなたが望むなら夏休みを取って貰っても構わないのよ?」

「...それはどういう意味でしょうか?」

「だって私が帰省してたらマリーも休めたはずでしょ? だから申し訳無いなって思って...」
 
「お気になさらず。私はミナお嬢様がどこに行かれようともご一緒致しますので」

「え? そうなの? 私てっきりこの学園に居る間だけだとばっかり...」

「護衛とはそういう者でございます」

 とんだブラック企業だったよ...まぁでも確かに護衛ってそういうもんか。

「そうなんだ...その...ありがとうね」

「職務ですから」

 なんかゴメンね~

「それよりミナお嬢様、そろそろアリシア様がいらっしゃる時間です。お出掛けのご用意を」

「あ、そうだった」

 そう、今日はこれからアリシアと街にお出掛けなんだよね。久し振りだから楽しみだなぁ~『精霊の愛し子』になるまでは、仲の良いクラスメイト達と放課後や休日にしょっちゅう遊びに行ったりしてたんだけだどね。最近は簡単に出歩けなくなっちゃったから。

 今日はアリシアとの親睦を深める意味でってことで、前もってお出掛けの申請をしといた。ちょっとしたお出掛けにも警備が絡むからって申請が必要なんだよね~ あぁ、ホントに過保護...

 アリシアは元々、王都の学園に通ってたから王都の地理にも詳しいみたい。案内なら任せてって言ってた。穴場巡りとか楽しそうだよね~

「こんな感じで如何でしょうか?」

「うん! バッチリじゃない!」

 今日のアタシのコーディネートは、夏らしく真っ白なワンピースに、同じく白の鍔が広い帽子。なんだか避暑地のお嬢様みたいじゃない!? あ、一応お嬢様だったよ。てへ。

 ドアがノックされる。アリシアが来たみたいだ。

「ミナ~ おはよー」

「おはよー、アリシア」

 今日のアリシアは水色のワンピースにストローハット。涼しげで良い感じだね!

「では参りましょうか」

「うん、今日はよろしくね、マリー」

「マリーさん、よろしく~」

 そう、今日はマリーも一緒なんだよね。ずっと一緒に暮らしてるけど、マリーとお出掛けするのは初めてだからこれも楽しみだよね~ いざ、出発~!


◇◇◇


「いやぁ、さすがは王都と言うべきか、いつ来ても人で一杯だね~」

 アタシ達は商店街に来ていた。ハグれないようにってアリシアが手を繋いで来るんだけど、これどう見ても友達同士じゃなくて姉妹にしか見えないだろうな。

「ミナ、あれ可愛くない?」

 アリシアに雑貨屋、アクセサリー売り場、洋服店など軒並み連れ回されて、どんどん買い物の量が増えていく。その度に荷物持ちとしてマリーの仕事が増えていく。ゴメンね、マリー...

「アリシア、ちょっと休憩しようよ」

 買い物に夢中になっていたら、もうお昼過ぎだ。アタシ達は屋台通りに来ていた。あちらこちらから香ばしい匂いが漂って来る。近くに休憩スペースがあるので、マリーに休憩がてら場所取りをお願いし、アリシアと二人で片っ端から買い込んでいく。

 肉串し、焼き鳥、焼きそば、たこ焼き、クレープ、などなど、前世で馴染み深い食べ物ばかり。懐かしく嬉しくて興奮して買い続けて...気付いたら食べ切れるの? って量になっちゃった。二人して苦笑しながら冷たい飲み物を買ってマリーの所に戻った。

「ふぅ~ 食った~」

 食べ終わってアタシが腹を擦っているとマリーが「お行儀悪いですよ」って目で睨んでくるけど、今日くらいは許してよ。横でアリシアも同じポーズしてるし。やっぱ買い過ぎたね...

「これからどこ行く?」

 程良く休憩した後、アタシがアリシアに尋ねると、

「あ、私行ってみたい店があるんだ」

 と言うアリシアに連いて行った先は、商店街から抜けて人通りが少ない通りで、なんだか行き交う人達のガラが悪いような。どこ行くんだろ? って思ってたら、

「ここだよ」

「ここって...武器屋?」

「そう、ダンジョンに行くなら武器は欠かせないでしょ」

 確かにそうだ。自分に合う武器は必要になるだろう。もっともアタシでも持てるような武器があるのかどうか疑問なんだけど...

 初めて入った武器屋は割と広々としてた。もっとごちゃごちゃしたイメージがあったから少し意外だった。お客さんは当然というか強面の人ばっかりだ。アタシ達は完全に浮いてる。

「ミナ、これなんか良いんじゃない?」

 そんな雰囲気を物ともせずアリシアが薦めて来たのは、

「これは...ロッド?」

 そう、魔法少女が持つような可愛らしいものじゃなく、先端の所に赤い魔石かな? が埋め込まれているだけのシンプルなもの。長さはアタシの身長と同じくらい。持ってみると意外に軽い。これなら振り回せるかも。長時間持っていても疲れないかも。

「うん、良いかも知れない」

「でしょう? やっぱ魔法少女は杖持たないとね!」

「をいっ! それが目当てかよっ! んで? そう言うアリシアは?」

「私のはこれ」

「め、メリケンサックゥ~?」

「うん、格闘系って言ったらこれっしょ!」

「いや、そんな良い笑顔で言われても...」

 ま、まぁアリシアが良いって言うならいいんだけどね...


◇◇◇


 武器屋を出てそろそろ帰ろうかと話していた時、急にマリーが持っていた荷物を捨ててアタシ達の前に出た。何事? って思ってたら、

「よぅ、姉ちゃん。久し振りだなぁ~ 俺達のこと覚えてるかい?」

 いかにも破落戸といった風体の男達が近付いて来た。後ろにも居る。前に5人、後ろにも5人。どうやら囲まれたようだ。アリシアに話し掛けている。これってもしかして...

「悪いけど覚えて無いわ。ゴキブリはみんな同じに見えるもの」

「てめぇ、舐めやがってっ! やっちまえっ!」

「マリーさんっ! 前をお願いっ! 私は後ろをっ! ミナっ! 私達から離れないでっ!」

「「 了解っ! 」」

 アリシアが指示を飛ばす。彼女が強いのは分かってるが、マリーが戦うのを見るのは初めてだ。アタシはどちらもにもフォロー出来るように、さっき買ったばかりのロッドを構える。

 アリシアはさすがに人間相手にはメリケンサックは使わないようで、身体強化のみで戦ってる。ヘタすりゃ殺しちゃうもんね。それでも危なげ無く相手を圧倒してる。

 マリーもさすがと言うべきか、この程度の相手なら余裕みたいだ。着実に数を減らしている。そうなると相手は数の利を生かしてアタシに狙いを定めて来る。人質に取ろうという魂胆だろう。でもねぇ...

「くそっ! こうなったらこのガキを人質に...グェェェッ!」

 アタシに迫って来た破落戸は、影が始末してくれた。気付くとアリシアとマリーの方も片が付いたらしい。破落戸は全て地面を這ってる。


「二人ともお疲れ様。怪我は無い?」

 破落戸の後始末は影に任せて、アタシは二人を労う。

「問題有りません」

「......」

「アリシア、どっか怪我した?」

「ううん、そうじゃないの...あのね、今の破落戸って」

「前にアリシアを襲った連中でしょ?」

「気付いてたんだ...ゴメンね、私のせいで...」

「アリシアなんも悪くないじゃん? ゴキブリを駆除しただけっしょ?」

「そっか...そうだよね...ミナ、ありがとう...」

 良し良し、やっと笑顔になったね。アリシアが気に病む必要なんてどこにも無いんだからさ。笑っていて欲しい。女の子は笑顔が一番だよ!

「じゃ帰ろうか」

 街に夕暮れが迫る中、心地よい疲れと共にアタシ達は家路に着いた。
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