処刑される未来をなんとか回避したい公爵令嬢と、その公爵令嬢を絶対に処刑したい男爵令嬢のお話

真理亜

文字の大きさ
上 下
15 / 18

15

しおりを挟む
「いいから行くぞ? 王族の俺が一人で入場なんて恥ずかしい真似は出来ないからな」

「分かりましたよ...」

 仕方なくエミリアはヘンリーに手を引かれて会場の中へ入った。

「やっと来ましたね、ヘンリー殿下!」

 すると壇上にはアンソニーを伴ったイライザが仁王立ちしていた。

「今日この場であなたを断罪します!」

 イライザはそう高らかに宣言した。

「のあっ!? な、なんだってぇ!?」

 驚愕しているヘンリーを尻目に、イライザは次々とヘンリーの悪行を暴いて行く。まずは王族の権威を振り飾し教師を恫喝して成績と出席日数を改竄させたこと。本来なら成績的にも出席日数的にもヘンリーは到底卒業できるはずがなかったのだ。

 次に小遣い銭欲しさに生徒を恐喝し金品を巻き上げていたこと。これは何人もの男子生徒が被害に遭っている。何れも貴族の中では位の低い男爵家や子爵家の生徒ばかりだった。

「更にもっとも悪質だったのが、女子生徒を王宮に連れて行ってやると騙して連れ出し、薬を使って眠らせた挙げ句暴行したことです! 可哀想に...被害に遭った女子生徒の中には、妊娠してしまい人知れず堕胎した娘も居れば、純潔を散らされたことで心に深い傷を負い、人生を悲観して自決してしまった娘まで居るんですよ! なんでそんな酷いことが平気で出来るんですか! この...人の皮を被ったケダモノがぁ!」

「あぐ...」

 全て真実なのでヘンリーにはなにも言えなかった。

「それだけじゃない。ヘンリー、お前。遊ぶ金に困って国庫の金に手を付けたな。証拠もちゃんと揃ってる。言い逃れは出来ないぞ」

 アンソニーのトドメの一言でついにヘンリーは崩れ落ちた。

「近衛兵、このケダモノを連行しろ」

 そうアンソニーが命令すると、脱力したヘンリーは引き摺られるように連れて行かれた。

 エミリアはそんなヘンリーを呆然と見送りながら、あんなクズに少しでも思いを募らせたことを後悔していた。それと同時にヘンリーだけが断罪されて良かったと安堵もしていた。なにせ自分はなにもやっていないのだから。

 いや、なにも出来なかったというべきか。

「さて、エミリアさん。この人達に見覚えはありますか?」

 そんなエミリアの目に飛び込んで来たのは、

「あ、あんた達!?」

 そう、ヘンリーの取り巻きクズ三人衆である。相変わらずゲスい嗤いを浮かべながら壇上に上がって来た。

「あなた、この三人に私を襲うよう依頼したらしいわね?」

「あ、あんた達、裏切ったのね! なんて人でなしなの! 信じらんないわ!」

「へへへっ! 悪く思うなよ? 公爵家を敵に回したくないんでな!」

「こちとらお前なんかに義理立てする筋合いはねぇしな!」

「この! このぉ! よくもぉ! ロクデナシのゲス野郎共がぁ!」

「近衛兵、この阿婆擦れを連行しろ」

 今にも取り巻き三人衆に掴み掛からんとするエミリアを近衛兵はガッシリ掴んで連行して行った。

「放せ! 放しなさい! 私はこの世界のヒロインなのよ~! こんな扱いを受けていいはずがないのよぁ~!」

 エミリアはなにか訳の分からないことを叫びながら退場して行った。

「あなた達、ご苦労だったわね」

「ひひひっ! なぁに、当然のことをしたまでですぜ!」

「そう、それなら私も当然のことをしないとね。コイツらを連行して」

 イライザは近衛兵にそう命じた。

「へっ!? な、なんで俺達まで!?」

「あんた達、ヘンリー殿下と一緒になって女子生徒に暴行していたそうじゃない?。ネタは上がってんのよ?」

「そ、それは...」

「おい、このケダモノ共をさっさと連れて行け」

 アンソニーが重ねてそう命じた。三人が連行されて行った後、

「皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした。余興はこれで終わりです。さあ、卒業式を開始しましょうか」

 イライザは仕切り直すようにそう宣言した。

「イライザ、お疲れ様」

「アンソニー様、ありがとうございます」

 これでもうあの悪夢に魘されることはなくなるだろう。

 イライザは晴れやかな笑顔でアンソニーに寄り添った。


 ~ fin. ~
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

婚約破棄の、その後は

冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。 身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが… 全九話。 「小説家になろう」にも掲載しています。

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

公爵令嬢の一度きりの魔法

夜桜
恋愛
 領地を譲渡してくれるという条件で、皇帝アストラと婚約を交わした公爵令嬢・フィセル。しかし、実際に領地へ赴き現場を見て見ればそこはただの荒地だった。  騙されたフィセルは追及するけれど婚約破棄される。  一度だけ魔法が使えるフィセルは、魔法を使って人生最大の選択をする。

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。 国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。 自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。 はい、詰んだ。 将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。 よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。 国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

魅了アイテムを使ったヒロインの末路

クラッベ
恋愛
乙女ゲームの世界に主人公として転生したのはいいものの、何故か問題を起こさない悪役令嬢にヤキモキする日々を送っているヒロイン。 何をやっても振り向いてくれない攻略対象達に、ついにヒロインは課金アイテムである「魅惑のコロン」に手を出して…

処理中です...