処刑される未来をなんとか回避したい公爵令嬢と、その公爵令嬢を絶対に処刑したい男爵令嬢のお話

真理亜

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 次の日の放課後、エミリアは一人教室に残ってなにやら作業をしていた。

 自分の机から教科書を取り出し、それをビリビリと引き裂き始めた。そう、乙女ゲームの定番とも言える『教科書破り』を自作自演しているのだ。

 本来ならイライザが自身の取り巻き共に命じてやらせるものだが、取り巻き共もイライザ自身も一向にやる様子が無い。

 というより、イライザにはゲームの中に居たような取り巻き共が一人も居ない。この辺りもゲームのシナリオから外れている。

 なので仕方なくエミリアが自分でやるしかないのだ。

「フゥ...紙を破くのって結構体力要るのね...いい加減、手が疲れて来ちゃったわ...」

 段々面倒になって来たエミリアは、そう独り言ちた後カッターを取り出して教科書を切り裂き始めた。そこへ、ガラッという音と共に教室のドアが開いた。

「うん!? まだ誰か残っているのか!?」

 見回りの教師だった。教師の出現に慌てたエミリアの手元が狂った。

「あっ! 痛っ!」

 エミリアはカッターで指を切ってしまった。真っ赤な鮮血が飛び散る。それを見た教師が慌ててエミリアに駆け寄る。

「お、おい、大丈夫か!? というか、お前一体なにやってんだ!?」

 教師は驚いたような呆れたような顔でエミリアに詰問する。

「え、え~と...そ、その...」

 まさか自分で自分の教科書を引き裂いて、それをイライザのせいにしようとしてたなんて言えるはずもない。

 結局その日、エミリアは自分の教科書を引き裂いた上、自傷行為までする危ないヤツだということになって、生徒指導室に連行され詰問されることになってしまった。

 その噂は瞬く間に広がり、エミリアの周りから人が離れて行った。そもそもエミリアは元々、クラスメートの特に女子達からは敬遠されていた。

 それも当然で、婚約者の居るヘンリーに白昼堂々恥ずかし気もなく付き纏っていたこと、しかもその婚約者は全校生徒から慕われている生徒会長のイライザであること。これで嫌われない方がどうかしているだろう。

 それでも数少ないながら友人と呼べる者も何人か居たのだが、今回の事件のせいで完全にボッチになってしまった。

 エミリアは焦り捲った。なぜなら、これから自作自演しようとしていたこれも乙女ゲームの定番である『噴水流し』『階段落ち』両方の協力者というか目撃者が確保できないからだ。

 どちらも『イライザまたはその取り巻き共に噴水へ投げ込まれた。そして階段の上から突き落とされた』というエミリアのウソの証言を信じてくれる人達が必要になる。

 ボッチでしかも危ないヤツだと思われてしまったエミリアには到底無理な相談だった。
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