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 その日のビビアンは授業どころではなかった。

 今朝、ライオスに言われたことが頭から離れない。伯爵家から出られる? もう使用人の仕事もしなくても良い? 

 ビビアンがずっと待ち望んでいたことのはずなのに、それが実現するとなるとどうにも現実味が無い。

 ライオスはああ言っていたが、伯爵家であるビビアンの家族はともかく、王宮で暮らすことを婚約者であるバレットの実家の筆頭公爵家が許してくれるんだろうか?

 そう言ったことをつらつらと考えていたら、あっという間に放課後になっていた。言われた通り大人しくライオスの迎えを待つ。すると外が騒がしくなって来た。

「お、おい! ま、待て! アマンダ!」

「待ちません! 今日こそはハッキリと言ってやりますわ!」

 ガラッ!

 勢い良く扉を開けて入って来たのはアマンダとバレットだった。というより、バレットはアマンダを止めようとしている感じだ。

「ちょっとアンタ! よくもバレット様に無礼を働いたわね! 婚約者だからと言って調子こいてんじゃないわよ! このブス!」

 ビビアンを指差していきなり捲し立てるアマンダに、

「えっ!? えっ!?」

 ビビアンは戸惑うばかりだった。そしてアマンダを止めようとしているバレットは、いつビビアンのカウンターが発動するのかと戦々恐々としていた。すっかり心を折られていたのだ。

「騒がしいな。一体何事だ!?」

 そこへビビアンを迎えにライオスが現れた。

「ら、ライオス殿下!?」

 いきなり王族が出て来たことで、さすがにアマンダも畏まった。バレットは青い顔をしている。

「待たせたな、ビビアン。さぁ、帰ろうか」

 ライオスはそんなアマンダ達を興味無さそうにチラッと一瞥しただけで、ビビアンの手を握り連れ出そうとする。

「お、お待ち下さい! ライオス殿下!」

 そんなライオスをアマンダが引き止める。

「なんだ!?」

 ライオスは不機嫌さを隠そうともせずアマンダを睨み付ける。一瞬怯みそうになったアマンダだが、気を取り直して続けた。

「なんでその女の手を取ったりしてるんですか! その女はライオス殿下に相応しくなんかないですよ!」

「その女だと!? 貴様、誰に向かって物を言ってる!?」

 周りが震える程の怒気を発したライオスが、射殺さんばかりの視線をアマンダに向ける。

「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」

 それだけで顔面蒼白になった。アマンダではなくバレットが。だがアマンダはそれでも怯まなかった。

「ライオス殿下! 聞いて下さい!」

 アマンダは毅然として言葉を続けた。


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