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「アイリス! 貴様ぁ! このサリアが平民だからという理由で散々虐めていたそうだなぁ!? 貴様のような性根の腐った女など、この高貴な俺様には相応しくない! よってこの場で婚約破棄を申し渡す! 何か言い分があるなら言ってみろ!」

 今日は明日から始まる夏休みを前に、学園恒例の舞踏会が講堂で開かれていた。

 その冒頭、3人の取り巻きを従えて壇上に上がったこの国の第2王子イーサンは、自身の婚約者である公爵令嬢のアイリスを見下ろし、下卑た嗤いを浮かべながら言い放った。彼の取り巻き3人も同じように下卑た笑みを浮かべている。

 そしてイーサンの傍らには、彼に肩を抱かれながら撓垂れ掛かっている儚げな少女の姿があった。

 名指しされたアイリスは顔色一つ変えることなく反論した。

「身に覚えがありませんわ」

「貴様ぁ! 惚ける気かぁ!」

 イーサンが激昂する。

「そもそも虐める理由がありませんもの。どうして私がそんなことをする必要がありますの?」

「貴様がサリアに嫉妬したからだろうがぁ!」

「嫉妬? 誰が誰に嫉妬するんですの?」

 アイリスは本気で分からないというように首を捻った。イーサンはますます猛り立ち、唾を飛ばしながら叫ぶ。

「貴様が俺様とサリアの仲に嫉妬したからだろうがぁ!」
 
「まぁ、どうして私が嫉妬しますの? 殿下が誰と仲良くされていようと、私には関係ありませんわ」

 ここでイーサンはちょっと怯んだ。

「なっ!? 貴様は俺の婚約者だろうが!?」

「えぇ、大変不本意ですが、それが何か?」

 アイリスは本当に嫌そうにそう言った。それに気付かずイーサンは続ける。

「俺様に惚れてるから嫉妬したんじゃないのか!?」

「いいえ微塵も」

「ぬあっ!?」

 イーサンは思ってもいなかったのか、間抜けな声を上げた。

「たとえ一万歩いえ一億歩いえいえ一兆歩譲って、あなたに惚れていたとしてもですね、それでもやっぱり嫉妬する理由がありませんわ」

「随分譲ったな.. それはともかくどうしてだ!?」

「だって家畜に嫉妬する趣味はありませんもの」 

「はっ!? 家畜!?」

 イーサンは最初何のことだか分からなかったが、次第にサリアのことを言われているのだと理解し、またもや怒りが爆発した。

「き、貴様ぁ! ついに本性を現しよったなぁ! 言うに事欠いてサリアが平民だから家畜扱いするなど! 恥を知れい!」

「あら? 殿下が仰ったことではありませんの? お忘れですか?」

 アイリスは何事もなかったかのように平然とそう言った。

「な、なんだとぉ!?」

 イーサンは焦ったように叫んだ。
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