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白馬便

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 戻るとは言ったものの、そこで私はハタと気付いた。

「あっ...馬が居ない...」

 そう、私の亜空間が強制解除を食らい馬車が露出した時、ヒュドラに怯えた馬二頭はさっさと逃げ出してしまっていた。

「ど、どうしよう...」

 ほとんど全員が満身創痍状態の私達だ。馬車に乗らないと移動することもままならない。私が途方に暮れていると、

「カリナさん、お待たせしました。では行きましょうか?」

「フゥ...大変な目に遭いましたね...」

 右足を引き摺りながら戻って来たセリカさんと、幼児体型になってしまったラウムさんを抱えるようにして戻って来たアスカさん。

 私はそんなお二方に申し訳ない気持ちで一杯だった。

「ん!? カリナさん!? どうしました!?」

 そんな私の様子をセリカさんが訝しんだ。

「セリカさん...馬が...」

「あぁ...」
 
 それだけで察してくれたセリカさんは目を伏せた。

「うん!? 馬がどうかしたんですか!?」

「実はですねアスカさん...さっき亜空間が解除された時に、ここまで私達を運んで来てくれた馬二頭が、ヒュドラを恐れて逃げて行っちゃったんですよ...」

 私は申し訳無さそうに説明した。

「あぁ、そういうことですか...それは困りましたね...」

 私達が揃って目を伏せていると、

「ブルルルッ!」

 さっきまでそこら辺の草を食んでいた白馬が、いつの間にか私達のすぐ側にやって来ていた。そして真っ青な瞳で私のことをジッと見詰める。

 その吸い込まれそうな瞳に見詰められていると、なんとなくだが白馬の言いたいことが伝わって来るような気がした。

「もしかして...私達を運んでくれるの?」

「ブルルルッ!」

 白馬はゆっくりと頷いた。私達はビックリして顔を見合わせた。


◇◇◇


「アスカさん、病人、怪我人が居るんで白馬はゆっくりと走らせてくださいね?」

 結局、白馬に馬車の牽引を任せることにした。不安要素はあるものの、他に手がないという切羽詰まった状況なので致し方ない。

 手綱を付けられている間、白馬は大人しくされるがままになっていたので案外大丈夫なのかも知れない。

 御者は私達の中で比較的元気なアスカさんが務めてくれることになった。

「えぇ、心得てます」

「それと、白馬を制御し切れなくなったらすぐに教えてくださいね? 亜空間へ強制連行しますんで」

「分かりましたが、カリナさんの魔力は戻っているんですか?」

「えぇ、そのくらいならなんとか」

「無理はしないでくださいね?」

「分かってます」

 座席には幼児化したラウムさんと、毒にやられたステラさんを寝かし、私とセリカさんはその隣に寄り添って座った。
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