空間魔法って実は凄いんです

清らかな乙女

　しばらく待つとフローラさんは、なにやらカラフルな絵本を手に戻って来た。

「お待たせしました。えっと...あ、これです」

　テーブルの上に広げた絵本のページをフローラさんが指差す。そこには美しい白馬の姿が描かれていた。そしてその白馬の額には、金色に輝く長い一本の角が生えていた。

「これがユニコーンなんですか?」

「えぇ、そうです。どうでしょう?　カリナさんがご覧になったという子馬はこんな感じゃなかったですか?」

「そうですね...」

　私はマジマジとその絵を眺めてみた。そして先程見た子馬の記憶と照らし合わせてみる。

「大体こんな感じだったと思いますよ。成長したらきっとこんな姿になるんでしょうね。ただ、角の色がちょっと違いますが」　

「何色だったんですか?」

「あれは何色っていうのかな...白っぽくも灰色っぽくもあったような...少なくとも、この絵のように金色じゃなかったことは確かですね」

「なるほど...」

「それでフローラさん、このユニコーンっていうのは一体なんなんですか?」

「ユニコーンは神の使いと呼ばれている伝説上の生き物です。聖獣とも呼ばれていますね」

「神の使い...聖獣...」

　そう言われてみると確かに。どことなく神々しい感じがするな。

「ちょっと待ってくれ」

　すると急にラウムさんが割って入って来た。

「色々と突っ込みたい点は多々あるんだが...まずは一点目、そんな伝説上の生き物がなんで一好事家の家に居るんだ?　というか、そもそも実在してんのか?」

「私もこのような子供向けの絵本でしか見たことはありませんが、実際に見たっていう人も居るらしいです」

「らしいってことは所詮、噂話レベルじゃないのか?　眉唾もんだって可能性は?」

「さぁ...そこまでは私にも...」

　フローラさんは首を捻った。そりゃそうだ。フローラさんに聞いたって事の真偽が分かる訳ないわな。

「その点はまぁいい。問題は次の点だ。ステラ、私はそんな子馬が居たのを見た覚えがない。お前はどうだ?」

「私も見ていません」

「えっ!?」

　今度は私が首を捻る番だった。

「カリナ、その子馬はどこら辺りに居た?」

「魔物が入れられたエリアの一番奥の檻ですけど?」

「一番奥?　おかしいな?　私の記憶が確かなら一番奥の檻は空っぽだったはずだ」

「えぇ、私もそう記憶しています」

「う、ウソ～!?」

　お二人にそう言われた私は、途端に自分の記憶に自信が持てなくなって来た。

「あ、あの～...」

　そこにフローラさんが遠慮がちに割って入って来た。

「一説によると、ユニコーンは清らかな乙女の前にしか姿を見せないそうなんです」