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妥協

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「あ、でも...ちょっと待ってください」

 浮かれている私達をフローラさんが呼び止めた。

「はい? どうしました?」

「すぐに引っ越すというのはちょっと...私が急に居なくなったら、今働いている居酒屋に迷惑を掛けてしまいますし...」

「あぁ、そりゃ当然ですよね...」

 浮かれ過ぎてて、そういったことが頭からスッポリ抜けてたよ。

「じゃあこうしましょう。まずは居酒屋の店長さんに話をして、フローラさんの後任を急いで探して貰って、引き継ぎが無事終了してから私と一緒に来る。これで如何ですか?」

「はい、そのようにしていただけたら助かります」

「という訳ですので、皆さんとはいったんここでお別れです。王都で待っていてくださいね?」

 私が後ろを振り返ってそう言うと、

『ちょっと待った~!』

 またしても全員がハモッた。あんたら仲良しだね。

「なんですか? なにか不満でも?」

 理由は分かっているけど、私は敢えて素っ気なく聞いてみた。

「やっと再会できたっていうのに、またお別れなんてイヤですよ!」

「私達もここに残ります!」

「帰るならみんな一緒じゃないとダメです!」

「もうあんな寂しい思いはしたくないからな!」

「いやいや、今回は今生の別れとかじゃないですってば。ほんのちょっとの間だけじゃないですか?」

 私は苦笑しながらそう言った。

『それでもイヤなもんはイヤ!』

 三度全員がハモッた。あんたら練習とかしてんの?

「そうは言ってもねぇ...全員でここに残るなんてのは非効率的じゃありません? ここには私一人残ればいいんで、皆さんは王都に戻って仕事をしてくださいよ?」

『カリナ(さん)が居なかったら仕事にならない!』

 ハモり四度目。最早名人芸だね。

「いやいや、そんなこと無いでしょうよ? これまでだって皆さんそれぞれに仕事して来たんだから。それともう一つ」

 私はピンポイントでアスカさんに向き合った。

「アスカさん、ルキノちゃんをずっと一人にしといていいんですか? きっと寂しがってますよ?」

「うぐっ! そ、それを言われると...」

 アスカさんのことだから、ちゃんと信頼の置けるベビーシッターを手配してから来たんだろうけど、それでもやっぱり、実の母親が長期に渡って家を空けるってのは教育上よろしくはないよね。

「だったら、アスカだけ先に帰って貰おう。それなら問題ないよな?」

「うぅ...ラウムさん、酷いですよ...」

 ラウムさんに売られた? 形のアスカさんは悲しげな表情を浮かべていた。

「問題はあると思うんですが...ふぅ、仕方ないですね...」

 私は妥協することにした。
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