空間魔法って実は凄いんです

真理亜

文字の大きさ
上 下
354 / 462

妥協

しおりを挟む
「あ、でも...ちょっと待ってください」

 浮かれている私達をフローラさんが呼び止めた。

「はい? どうしました?」

「すぐに引っ越すというのはちょっと...私が急に居なくなったら、今働いている居酒屋に迷惑を掛けてしまいますし...」

「あぁ、そりゃ当然ですよね...」

 浮かれ過ぎてて、そういったことが頭からスッポリ抜けてたよ。

「じゃあこうしましょう。まずは居酒屋の店長さんに話をして、フローラさんの後任を急いで探して貰って、引き継ぎが無事終了してから私と一緒に来る。これで如何ですか?」

「はい、そのようにしていただけたら助かります」

「という訳ですので、皆さんとはいったんここでお別れです。王都で待っていてくださいね?」

 私が後ろを振り返ってそう言うと、

『ちょっと待った~!』

 またしても全員がハモッた。あんたら仲良しだね。

「なんですか? なにか不満でも?」

 理由は分かっているけど、私は敢えて素っ気なく聞いてみた。

「やっと再会できたっていうのに、またお別れなんてイヤですよ!」

「私達もここに残ります!」

「帰るならみんな一緒じゃないとダメです!」

「もうあんな寂しい思いはしたくないからな!」

「いやいや、今回は今生の別れとかじゃないですってば。ほんのちょっとの間だけじゃないですか?」

 私は苦笑しながらそう言った。

『それでもイヤなもんはイヤ!』

 三度全員がハモッた。あんたら練習とかしてんの?

「そうは言ってもねぇ...全員でここに残るなんてのは非効率的じゃありません? ここには私一人残ればいいんで、皆さんは王都に戻って仕事をしてくださいよ?」

『カリナ(さん)が居なかったら仕事にならない!』

 ハモり四度目。最早名人芸だね。

「いやいや、そんなこと無いでしょうよ? これまでだって皆さんそれぞれに仕事して来たんだから。それともう一つ」

 私はピンポイントでアスカさんに向き合った。

「アスカさん、ルキノちゃんをずっと一人にしといていいんですか? きっと寂しがってますよ?」

「うぐっ! そ、それを言われると...」

 アスカさんのことだから、ちゃんと信頼の置けるベビーシッターを手配してから来たんだろうけど、それでもやっぱり、実の母親が長期に渡って家を空けるってのは教育上よろしくはないよね。

「だったら、アスカだけ先に帰って貰おう。それなら問題ないよな?」

「うぅ...ラウムさん、酷いですよ...」

 ラウムさんに売られた? 形のアスカさんは悲しげな表情を浮かべていた。

「問題はあると思うんですが...ふぅ、仕方ないですね...」

 私は妥協することにした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:454pt お気に入り:2,788

離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:4,127

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,628pt お気に入り:5,998

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

ホラー / 連載中 24h.ポイント:298pt お気に入り:179

やがて最強になる結界師、規格外の魔印を持って生まれたので無双します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,045

これは一つの結婚同盟

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:340

突然の契約結婚は……楽、でした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,577pt お気に入り:3,672

処理中です...