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空振り

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 泣きじゃくっているセリカさんの扱いに困っていると、ちょうど居酒屋の開店時間になったようでお客さんがチラホラと入って来た。

 なので取り敢えずセリカさんは放置して、私は自分の仕事に集中することにした。ちなみにラウムさんとアスカさんはカウンターの隅の席に陣取り、ジュースを片手に店の中を見回している。

 彼女達はストーカー野郎の顔を知らないので、ストーカー野郎が入って来た場合には、フローラさんが合図をすることになっている。

 もしフローラさんが、ストーカー野郎が入って来たことに気付かずに居たら、私が亜空間から飛び出して知らせるという段取りにもなっている。

 だから冷たいようだがセリカさんに構ってる場合じゃないのだ。

「か、カリナさ~ん...グシュグシュ...」

 泣き続けているセリカさんは放っておこう。


◇◇◇


 やがてフローラさんの休憩時間になった。ちなみにセリカさんはやっと泣き止んだ。

 フローラさんがいつものように賄いを持って来てくれる。

「フローラさん、お疲れ様です。ストーカー野郎は今んとこ来ませんね?」

「はい、安心しました。どうぞ、今日の賄いです」

「いつもすいません」

 今日は肉じゃがに豚汁、お新香と言った素朴なメニューだった。

「うわぁ~♪ 美味しそうですね~♪」

 すかさずセリカさんが顔を輝かす。

「あげませんからね? これは私の分ですから」

 私は釘を刺した。

「うぅ...わ、分かってますよぉ~...」

「あ、あの、セリカさんの分もご用意しましょうか?」

 拗ねたセリカさんを見かねてか、優しいフローラさんがそんなことを言って来た。

「えっ!? いいんですかぁ~!?」

「いやいや、ちょっと待って下さいよ」

 途端に顔を輝かすセリカさんを制して、私はフローラさんに問い掛ける。

「フローラさん、賄いって一人分しかないはずですよね?」

「えぇ、でもお金を払えば追加できます。もちろん、社員割引が効きますので割安になります」

「そんなことしなくてもいいですよ。セリカさん、食べ物ならいくらでも収納してるでしょ?」

「そ、それはそうなんですけどぉ~...カリナさんと同じ物を食べたいって言うかぁ~」

「そういうのはいいですから。フローラさんに迷惑掛けず、大人しくそっちを食べてなさい」

「はぁい...」

 セリカさんは拗ねながらも渋々従った。

「フローラさん、お騒がせしました。戻って貰って結構ですよ?」

「は、はぁ...分かりました...」

 結局この日もストーカー野郎がやって来ることはなかった。


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