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ミネルバの企み
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イアンはミネルバの実家であるベルザード公爵家に連れて来られていた。
応接室に通されたイアンはしばらく待たされた。やがてミネルバが現れた。どうやら着替えていたらしい。派手な金色のドレスにイアンは目が痛くなった。
「イアン様、お待たせして申し訳ありません」
「いえ、お気遣いなく」
改めてミネルバと対面する。やっぱり最初に抱いた印象通り胡散臭い女だと思った。だがそれでも、他に誰も頼る者がいないこの国において、カリナに達するための唯一の手掛かりを離す訳にはいかないとも思った。
「イアン様、お聞かせ頂いてもよろしいでしょうか? あなた様とカリナ様はどのようなご関係なのでしょう?」
そう言われてイアンはちょっと迷った。自分とカリナとの関係を説明するには、カリナが実家であるベルトラン伯爵家でどのような扱いを受けていたのか、そこから話す必要がある。迷った末、イアンは全て話すことにした。
「実は...」
ミネルバはイアンの話を黙って聞いた後、深いため息を吐いた。
「そうだったのですね...だからあんなにもカリナ様は...」
「それはどういう意味でしょうか?」
「イアン様が正直にお話し下さったので、私も正直にお話ししますわね。実は私、アクセル様の婚約者候補筆頭でしたの。でも、正式に婚約者として決定する間際になって、アクセル様がカリナ様を王宮に連れて参りました。護衛として雇うとおっしゃって。そこからです。アクセル様がおかしくなられたのは。事あるごとにカリナ様を優先なさるようになり、次第に私には冷たく当たるようになりました。私が嫉妬に狂ってカリナ様を虐めたなどという、根も葉もない噂が立ったりしましたわ。そしてついに、私はアクセル様の婚約者候補から外され、王宮を追い出されました...」
時折涙を浮かべながら苦しそうに語るミネルバに、いつしかイアンの心は揺れ動きそうになっていた。
「カリナ様の置かれた境遇を鑑みれば、アクセル様のご寵愛にすがり付きたい気持ちも良く分かりますが、何もそこまでしなくても...私だってアクセル様をお慕いしておりましたのに...」
「待って下さい! その噂を広めたのがカリナだという証拠はあるんですか!?」
「証拠はありません。でもこの結果をご覧になれば一目瞭然でございましょう?」
「それは確かにそうですが...」
「イアン様、単刀直入に伺いますが、まだカリナ様のことを愛しておられますか?」
「もちろんです! カリナを連れ戻すためにここまで来たんですから!」
「それならば私が協力致しますわ。二人でカリナ様の目を覚まさせて差し上げましょう」
「目を覚ます? それは一体?」
「今、カリナ様はご自身の傷心を癒やすために、目の前にある愛にすがってしまっている状態なんですわ。そこにイアン様が真実の愛を伝えるのです。そうすればきっとカリナ様の目も覚めるはずですわ。そう思いませんこと?」
「た、確かに...」
「そうなれば私もアクセル様と復縁できるかも知れませんし、そのためのご協力は惜しみませんことよ。如何でしょうか?」
「な、なるほど、それは有難いお申し出です...」
「決まりですわね。では準備が整うまで我が家の別邸にご滞在下さいませ」
「何から何まですいません...よろしくお願い致します」
そう言って頭を下げたイアンは、ミネルバが暗く嗤っていたことに気付かなかった。
◇◇◇
ポスン...ポスン...ポスン...ポスン...ポスン......
今日カリナの紙クズ攻撃は続いている。最近じゃもうこれがないと逆に落ち着かなくなってる俺も大概なんだろう。
それはさておき、俺は手元にある報告書に目を落とす。そこにはどうやらイアンとミネルバが結託したらしいと書いてあった。
イアンからの面会を断ったあの日、ミネルバの方からイアンに近付いたとの報告は受けていたので、その後も追跡調査を指示している。
今、イアンはベルザード家の別邸に居るらしい。厄介な二人が手を組んだな...
俺は対策を考えるためしばし黙考した。
ポスン...ポスン...ポスン...ポスン...ポスン......
応接室に通されたイアンはしばらく待たされた。やがてミネルバが現れた。どうやら着替えていたらしい。派手な金色のドレスにイアンは目が痛くなった。
「イアン様、お待たせして申し訳ありません」
「いえ、お気遣いなく」
改めてミネルバと対面する。やっぱり最初に抱いた印象通り胡散臭い女だと思った。だがそれでも、他に誰も頼る者がいないこの国において、カリナに達するための唯一の手掛かりを離す訳にはいかないとも思った。
「イアン様、お聞かせ頂いてもよろしいでしょうか? あなた様とカリナ様はどのようなご関係なのでしょう?」
そう言われてイアンはちょっと迷った。自分とカリナとの関係を説明するには、カリナが実家であるベルトラン伯爵家でどのような扱いを受けていたのか、そこから話す必要がある。迷った末、イアンは全て話すことにした。
「実は...」
ミネルバはイアンの話を黙って聞いた後、深いため息を吐いた。
「そうだったのですね...だからあんなにもカリナ様は...」
「それはどういう意味でしょうか?」
「イアン様が正直にお話し下さったので、私も正直にお話ししますわね。実は私、アクセル様の婚約者候補筆頭でしたの。でも、正式に婚約者として決定する間際になって、アクセル様がカリナ様を王宮に連れて参りました。護衛として雇うとおっしゃって。そこからです。アクセル様がおかしくなられたのは。事あるごとにカリナ様を優先なさるようになり、次第に私には冷たく当たるようになりました。私が嫉妬に狂ってカリナ様を虐めたなどという、根も葉もない噂が立ったりしましたわ。そしてついに、私はアクセル様の婚約者候補から外され、王宮を追い出されました...」
時折涙を浮かべながら苦しそうに語るミネルバに、いつしかイアンの心は揺れ動きそうになっていた。
「カリナ様の置かれた境遇を鑑みれば、アクセル様のご寵愛にすがり付きたい気持ちも良く分かりますが、何もそこまでしなくても...私だってアクセル様をお慕いしておりましたのに...」
「待って下さい! その噂を広めたのがカリナだという証拠はあるんですか!?」
「証拠はありません。でもこの結果をご覧になれば一目瞭然でございましょう?」
「それは確かにそうですが...」
「イアン様、単刀直入に伺いますが、まだカリナ様のことを愛しておられますか?」
「もちろんです! カリナを連れ戻すためにここまで来たんですから!」
「それならば私が協力致しますわ。二人でカリナ様の目を覚まさせて差し上げましょう」
「目を覚ます? それは一体?」
「今、カリナ様はご自身の傷心を癒やすために、目の前にある愛にすがってしまっている状態なんですわ。そこにイアン様が真実の愛を伝えるのです。そうすればきっとカリナ様の目も覚めるはずですわ。そう思いませんこと?」
「た、確かに...」
「そうなれば私もアクセル様と復縁できるかも知れませんし、そのためのご協力は惜しみませんことよ。如何でしょうか?」
「な、なるほど、それは有難いお申し出です...」
「決まりですわね。では準備が整うまで我が家の別邸にご滞在下さいませ」
「何から何まですいません...よろしくお願い致します」
そう言って頭を下げたイアンは、ミネルバが暗く嗤っていたことに気付かなかった。
◇◇◇
ポスン...ポスン...ポスン...ポスン...ポスン......
今日カリナの紙クズ攻撃は続いている。最近じゃもうこれがないと逆に落ち着かなくなってる俺も大概なんだろう。
それはさておき、俺は手元にある報告書に目を落とす。そこにはどうやらイアンとミネルバが結託したらしいと書いてあった。
イアンからの面会を断ったあの日、ミネルバの方からイアンに近付いたとの報告は受けていたので、その後も追跡調査を指示している。
今、イアンはベルザード家の別邸に居るらしい。厄介な二人が手を組んだな...
俺は対策を考えるためしばし黙考した。
ポスン...ポスン...ポスン...ポスン...ポスン......
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