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国境の町
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隣国へと向かう馬車の中で、私は物思いに耽っていた。
唯一心残りがあるとすれば、婚約者のイアン様のことだ。私より5歳年上の彼は、年齢差があるせいか私にとっては恋人というより兄のような存在だった。
政略目的の婚約だったはずなのに、とにかく私に優しく接してくれた。あの味方が誰も居ない屋敷の中で、イアン様と会っている時だけが心穏やかでいられた。安らぎを与えてくれた。イアン様のお陰で辛い日々を乗り越えられたと言っても過言ではない。本当に感謝してもしきれないくらいだ。
だからこそ、何も言わず、何も言えずに出て来てしまったことは、悔やまれてならない。だが、家のゴタゴタにイアン様を巻き込んで、迷惑を掛けることになるのだけはどうしても避けたかった。
お慕いしていたからこそ、余計にそう思うようになっていた。だからイアン様に相談することもしなかった。助けを求めることも出来なかった。
もしもそうしていたら...助けを求めたり、相談したりしていたら、違う未来になったていたのかも知れない。だが今となってはもう遅い。過去は変えられないのだ。
優しいイアン様のことだ。私が置かれた状況を知ったら、私が家出したことを知ったら、きっと私を探そうとするだろう。だけど私はそんなこと望んでない。探して欲しくない。
どうかもう、私のことは死んだ者と思って忘れて欲しい。そして新しい人と幸せになって欲しい。今でもお慕いしているからこそ、心からそう願う。
優しくしくれてありがとう。そして...さようなら...
◇◇◇
馬車に揺られること約1日半、私は国境の町ヘインズに到着した。この町は、我が母国ウインヘルム王国と隣国オスマルク王国との国境線に接していて、両国の玄関口になっている。
国境を目の前にして、私はホッと胸を撫で下ろした。今の所、追っ手が掛かった様子はない。このままオスマルクに渡ってしまえば、取り敢えずは安心だろう。
私はウインヘルム側の国境警備所に向かった。
「身分証明書は?」
「へっ!?」
「だからお前さんの身元を証明するモノだよ。貴族だったら家の紋章付きの指輪とか、平民だったら渡航許可証とかだよ。何も無いのか」
「ありません...」
「ではここを通すことは出来ないな」
「そ、そんな...」
なんてこった! ここまで来てそれは無いだろう! 私は頭を抱えた。
「あ、あのお金でどうにかなるってことは...」
「無いな」
取り付く島もない! いっそ能力を使って強行突破しちゃろうかと思ったが、顔を見られている以上、ここで私が急に消えたりしたら大騒ぎになるだろう。それは避けたい。
「あの...許可証って発行までにどのくらい時間が掛かるモノなんでしょうか...」
「まぁ、人に拠るだろうが...自分の実家がある地域の領主に身元確認を書類を送って、それが返って来るまでだから、早くても2、3ヶ月は掛かるんじゃないか?」
詰んだ...私の場合、自分の実家がある地域の領主に書類を送る=実家に書類を送るということだ。せっかく逃げ出しだってのに、わざわざ自分から居場所を知らせてどうするよ! 私は途方に暮れてしまった。
「なんだ? 今すぐ隣国へ行きたいのか? お前さんが魔力持ちならなんとかなるが、そうじゃなかったら諦めな」
「えっ!? それってどういう意味ですか!?」
「魔力持ちなら冒険者になれるだろ? 冒険者カードは身分証明書代わりになるんだよ」
「私、魔力持ちです! 今すぐ冒険者ギルドに行って冒険者になって来ます!」
私は脱兎の如く走って、この町の冒険者ギルドに駆け込んだ。
唯一心残りがあるとすれば、婚約者のイアン様のことだ。私より5歳年上の彼は、年齢差があるせいか私にとっては恋人というより兄のような存在だった。
政略目的の婚約だったはずなのに、とにかく私に優しく接してくれた。あの味方が誰も居ない屋敷の中で、イアン様と会っている時だけが心穏やかでいられた。安らぎを与えてくれた。イアン様のお陰で辛い日々を乗り越えられたと言っても過言ではない。本当に感謝してもしきれないくらいだ。
だからこそ、何も言わず、何も言えずに出て来てしまったことは、悔やまれてならない。だが、家のゴタゴタにイアン様を巻き込んで、迷惑を掛けることになるのだけはどうしても避けたかった。
お慕いしていたからこそ、余計にそう思うようになっていた。だからイアン様に相談することもしなかった。助けを求めることも出来なかった。
もしもそうしていたら...助けを求めたり、相談したりしていたら、違う未来になったていたのかも知れない。だが今となってはもう遅い。過去は変えられないのだ。
優しいイアン様のことだ。私が置かれた状況を知ったら、私が家出したことを知ったら、きっと私を探そうとするだろう。だけど私はそんなこと望んでない。探して欲しくない。
どうかもう、私のことは死んだ者と思って忘れて欲しい。そして新しい人と幸せになって欲しい。今でもお慕いしているからこそ、心からそう願う。
優しくしくれてありがとう。そして...さようなら...
◇◇◇
馬車に揺られること約1日半、私は国境の町ヘインズに到着した。この町は、我が母国ウインヘルム王国と隣国オスマルク王国との国境線に接していて、両国の玄関口になっている。
国境を目の前にして、私はホッと胸を撫で下ろした。今の所、追っ手が掛かった様子はない。このままオスマルクに渡ってしまえば、取り敢えずは安心だろう。
私はウインヘルム側の国境警備所に向かった。
「身分証明書は?」
「へっ!?」
「だからお前さんの身元を証明するモノだよ。貴族だったら家の紋章付きの指輪とか、平民だったら渡航許可証とかだよ。何も無いのか」
「ありません...」
「ではここを通すことは出来ないな」
「そ、そんな...」
なんてこった! ここまで来てそれは無いだろう! 私は頭を抱えた。
「あ、あのお金でどうにかなるってことは...」
「無いな」
取り付く島もない! いっそ能力を使って強行突破しちゃろうかと思ったが、顔を見られている以上、ここで私が急に消えたりしたら大騒ぎになるだろう。それは避けたい。
「あの...許可証って発行までにどのくらい時間が掛かるモノなんでしょうか...」
「まぁ、人に拠るだろうが...自分の実家がある地域の領主に身元確認を書類を送って、それが返って来るまでだから、早くても2、3ヶ月は掛かるんじゃないか?」
詰んだ...私の場合、自分の実家がある地域の領主に書類を送る=実家に書類を送るということだ。せっかく逃げ出しだってのに、わざわざ自分から居場所を知らせてどうするよ! 私は途方に暮れてしまった。
「なんだ? 今すぐ隣国へ行きたいのか? お前さんが魔力持ちならなんとかなるが、そうじゃなかったら諦めな」
「えっ!? それってどういう意味ですか!?」
「魔力持ちなら冒険者になれるだろ? 冒険者カードは身分証明書代わりになるんだよ」
「私、魔力持ちです! 今すぐ冒険者ギルドに行って冒険者になって来ます!」
私は脱兎の如く走って、この町の冒険者ギルドに駆け込んだ。
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