王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います

真理亜

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「これは僕とエリス...こっちはパパと...ママ...」

 アーサーはたどたどしく肖像画を指差してはそう呟いた。

「ねぇ? ママはどこ行ったの?」

 ミハエルは言葉に詰まった。

「...ママは...今、ちょっと遠い所に行ってるんだよ...」

「すぐ帰って来る?」

「...どうだろう...時間が掛かるかも知れないな...」

「そうなんだ。じゃあ僕は良い子にして待ってるね?」

「...あぁ、偉いぞ...」

 ミハエルはアーサーの頭を撫でながら必死に涙を堪えていた。

「あ、そうだ」

 急にアーサーは、傍らに置いてあったカバンの中を漁り出した。どうやらこのカバン一つ持って家を出て来たらしい。

「どうしたんだい?」

 ミハエルが覗き込むと、アーサーは小さな小物入れをカバンから取り出した。

「大事な物はこの中にしまっておきなさいってママが言ってたんだ」

 そう言ってアーサーは肖像画をキレイに畳んで入れようとしたが、幼さ故上手くいかなかった。見かねたミハエルが手を貸す。

「手伝ってあげよう」

「ありがとう」

 その時、妹のエリスがグズった。アーサーはすぐに妹をあやしに掛かる。良いお兄ちゃん振りに目を細めながら、ミハエルは肖像画を畳んで小物入れの中に入れようとした。

「うん?」

 小物入れの底に違和感がある。ミハエルはアーサーに気付かれないようにそっと探った。小物入れの底は二重底になっていた。慎重に開けてみると、そこには小さな黒皮の手帳が入っていた。ミハエルはコッソリと懐に入れた。


◇◇◇


「なんということだ...」

 約一時間後、ミハエルは自身の執務室で頭を抱えていた。傍らには先程コッソリ懐に入れた黒皮の手帳がある。

「殿下、お呼びでしょうか?」

 そこにライラの治療を担当した衛生兵がやって来た。

「あぁ、頼みがある。故ミーナ大公妃の検死結果を知りたい。検死報告書を手に入れられるか?」

「手に入れるもなにも、検死を担当したのはこの私ですから。なんでもお聞きください」

「あぁ、そうだったのか。それなら話は早い。ミーナ大公妃はどんな種類の毒を呷ったんだ?」

「青酸カリでした。ブランデーに入れて隠し持っていたようです」

「ブランデー?」

「はい。現場に着いた時、真っ先に鼻に付いたのは青酸カリ特有のアーモンド臭ではなく、ブランデーの甘い香りでした」

「そうか...ありがとう...」

 衛生兵を下がらせた後、ミハエルは覚悟完了したような厳しい表情を浮かべ、黒皮の手帳を手に執務室を後にした。そして王宮へと向かって足早に歩を進めた。

 
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