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 三人と別れたミハエルは医務室に向かった。中ではライラがグッスリと眠っている。

「ライラの様子はどうだ?」

 ミハエルはライラを起こさないように囁き声で医師に尋ねた。

「えぇ、後頭部の傷口は完全に塞がってますのでもう心配はありません。傷痕は多少残るでしょうが、髪で完全に隠れますので問題ないでしょう。まだ軽い脱水状態にありますので、念のため今は栄養剤等の点滴を行っている最中です」 

 医師も囁き声でそう返した。

「そうか...良かった...引き続きよろしく頼む...」

「お任せください」

 ホッと胸を撫で下ろしたミハエルは、事後処理を行うため医務室を後にした。


◇◇◇


「殿下、お帰りなさいませ」

 ミハエルが騎士団の詰め所に到着すると、先発していた近衛騎士団長のグレイが出迎えてくれた。

「あぁ、今帰った。父上には...国王陛下には伝えてくれたか?」

「はい...」

「なんて言ってた?」

「大公夫妻揃って不慮の事故...具体的には馬車の事故に遭いお亡くなりになられたということにして国葬を執り行うそうです...」

「なるほどな...王族のイメージを損なわないためにはそうするしかないか...」

「えぇ...」

 王弟がクーデターを企てた挙げ句、失敗して逃亡中に死亡。そして大公妃は毒を呷って自決したなんてことが表沙汰になったりしたら、大スキャンダルを巻き起こすであろうことは必至だ。国民から完全にソッポを向かれてしまうだろう。そうならないための必要措置ということになる。

「叔父上の...故マクシミリアン大公の子供達の様子はどうだ?」

「はい...今は落ち着いておられますが...母親を恋しがっておられます...」

「無理もないか...上の子は男の子で確か名前はアーサーだったか?」

「はい」

「何歳だ?」

「三歳になられます」

「そうか...下の子は女の子だったな。確か名前はエリス?」

「はい」

「年子だったはずだからこっちはまだ二歳か」

「えぇ」

「僕にとっては甥っ子と姪っ子にあたるっていうのに、一度も会ったことは無いんだよな...」

 それだけ疎遠だったということである。もちろん父親の不仲が原因だ。

「お察し致します...」

「今、会えるか? 渡してあけたい物があるんだ」

「はい、近衛騎士団が保護しておりますのでご案内します」


◇◇◇


「やぁ、アーサーにエリス。こんにちわ。はじめまして」

「こんにちわ...」

「...ちわ...」

 近衛騎士団が用意した部屋の隅っこの方に、アーサーとエリスの二人は身を寄せ合うようにして佇んでいた。

「お兄ちゃん誰?」

 アーサーの方が尋ねて来た。

「僕の名はミハエル。君達のお父さんの...知り合いなんだ」

 ミハエルは言葉を濁した。

「今日はね、君達のお父さんから預かった物を届けに来たんだよ?」

「なあに?」

「これだよ」

 そう言ってミハエルは、懐からマクシミリアンの遺物である家族の肖像画を取り出した。
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