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「と、取引だとぉ!?」

 ルイスが忌々し気に叫んだ。

「そうよ! あんた達はこのオッサンが大事なんでしょ!? 死なせたくないんでしょ!? だったら素直に取引に応じなさい!」

 ライラはあくまでも強気だ。

「ぐぬぬぬっ!」

 ルイスが悔し気に歯噛みする。ライラの指摘は的を得てるだけになにも言い返せない。

「どうしたの!? 早く決断しなさい! じゃないと私の腕がいつまで持つか分かんないわよ!?」

 ライラは右腕でマクシミリアンを、左腕で命綱を抱えているのだ。確かに女の細腕ではいつまでもは持たないだろう。

「る、ルイス...し、仕方ない...と、取引とやらに応じよう...」

 今まさに命の危機に瀕しているマクシミリアンがまず落ちた。まぁ、それも無理からぬことではあるだろう。

「くっ! わ、分かりました...おいっ! 取引の内容を言えっ!」

 マクシミリアンにそう言われてしまっては致し方ない。ルイスは悔しさを滲ませながらそう言った。

「分かりゃいいのよ! 取引内容は単純よ! 私を速やかに解放しなさい! あんたは私のことを保険だとか言ってたけど、ここまで来たら保険なんて必要無いでしょう!? 私を連れて行く意味なんて無いじゃないの!?」

 これまた正論である。ルイスは言葉に詰まった。確かにライラの言う通り、この難所さえ越えてしまえば隣国はもう目と鼻の先だ。

 ミハエル達捜索隊がまだ追い付いていない以上、保険としてのライラは特に必要無い。逆に足枷にしかならないだろう。

 ではなぜライラを解放することに躊躇しているのか? 実はこの連中、とっても下衆なことを企んでいたりする。

 ライラを隣国まで連れて行って、まずは自分達がライラの体をとことんまで蹂躙し尽くし、お楽しみに飽きたら娼館に売り飛ばしてやろうなんて思っているのだ。

 全くもって下衆の極みではあるが、これがマクシミリアンの言うところのささやかな意趣返しになる。

 次代を担う次期国王のミハエルがお気に入りの女ということは、現時点で一番王妃に近い女ということになる。

 そんな女が隣国でボロボロになってしまっているということを知ったら、ミハエルはどんな顔をするだろうか? そしてミハエルの父親であるヘンドリックスは?

 二人ともさぞかし悔しがることだろう。逆にマクシミリアンはさぞや爽快な気分になることだろう。

 そんな目論見だったのだが、命の危険を侵してまで拘るようなことじゃない。

「分かった...そなたを解放する...」

 マクシミリアンは観念したようにそう言った。
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