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「おいっ! ルイス! 急げっ!」

 マクシミリアンを支えるようにして屋敷の外に出たルイスを、仲間の一人が焦ったような口調で急き立てた。

「どうした?」

「追っ手が迫って来てる! 急いで馬車に乗れ!」

「なに!? もう来たのか!?」

 ルイスは慌ててマクシミリアンを引き摺るようにして馬車に乗り込んだ。

「いくらなんでも早過ぎないか!?」

「知るか! そんなこと! 急ぐぞ!」

 ルイス達が馬車に乗るや否や、馬車は猛スピードで走り出した。

「この分だと他の隠れ家にも手が回っていそうだな...」

 マクシミリアンは諦観したような表情を浮かべながらそう呟いた。

「はい、そうですね...」

「仕方ない...このまま隣国へと直行しよう...」

「た、大公様! そ、それだと奥方様とお子様方達が!」

 ルイスはビックリして思わず叫んでいた。マクシミリアンの家族は別の隠れ家に潜んでいるのだ。それを放置していくということは...

「大丈夫だ...ヤツも...ヘンドリックスも鬼ではないだろうから、捕まっても命までは取らんと思う...」

「し、しかし!」

 ルイスはマクシミリアンの家族のことを思い出していた。王族にしては珍しく、マクシミリアンは晩婚だったので奥方はまだ若く子供達もまだ幼い。

 そんな家族をマクシミリアンは大事に思っていたはずだ。

「それにな...女子供連れで山越えは厳しいだろう...」

「そ、それは確かに...」

 これから彼らが向かうルートは、隣国への隠しルートとでもいうべき道で、険しい山を越える必要があるのだった。

 こんな状況下でも大事な家族を慮るマクシミリアンに、ルイスはなにも言えなくなった。

「時にルイス、あの檻はなんだ?」

 その時、マクシミリアンは馬車の隅に置かれている檻の存在に気付いた。

「あ、あれはですね...」


◇◇◇


「うがっ!?」

 空腹を抱えたライラは、いったん馬車が止まった時にまたうつらうつらと居眠りをしていたが、馬車がまた動き出したせいで叩き起こされた。

 ふと耳を澄ますと、馬車の騒音の中に人の声が混じっていることに気付いた。それとなにやらアルコールの匂いがする。

「なるほどな...この女が...」

 すると檻の前に人の気配を感じた。ライラは緊張して身構える。

「はい、申し訳ございません...うっかり姿を見られてしまいまして...」

「ふむ...ミハエルのヤツのお気に入りの女か...」

「はい、しかも山育ちなんで山道も越えられるかと...」

「なるほどな...保険としては十分ということか...」

「はい、そう思います...」

「ヘンドリックスのヤツにも少しは意趣返しが出来るか...よかろう...」

 コイツらは一体なにを言っているんだろう? ルイスは分かるがもう一人の方は誰なんだろう?

 ライラの頭の中には盛大にクエスチョンマークが浮かんでいた。
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