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「ふむ、あんなに楽しんでくれているんなら、ちゃんとした新作として発表出来るようにもうちょっと体裁を整えておこうかな?」

 お昼ごはんを終えて自室に戻ったライラはそんな独り言を呟きながら、取材ノートとメイドさんに頼んでコピーして貰った初稿のコピーに目を通していた。

 なんだかもう遠い昔のことのように感じてしまうが、当初の目的は今回の王妃候補合宿を野次馬の一人として取材し、それを新作のネタにするつもりだったのだ。

 実際には自分も王妃候補の一人として参加しているんだという事実はこの際置いておくものとする。

「それがなんでこんなことに...」

 思い返してみれば、このたった三ヶ月余りの間に自分の立ち位置は随分と変化した。激変したと言っても良いかも知れない。

「まさか王子様とあんな関係になるとはなぁ...」

 本当に人生なにがあるか一寸先も分からない。だからこそ今出来ることをしっかりやっておこうとライラは思った。

 もしかして、このままなし崩し的に王妃候補に選ばれたりなんかしたら、そしてそのまますんなり王妃になんかなったりしたら、きっと自由に執筆出来るような時間は取れなくなってしまうだろうから。

「いやいやいやいや! なに考えてんだ私は!」

 そこまで想像してから慌てて頭を振る。そんな未来は嫌過ぎる。冗談じゃない。自分なんかに王妃が務まるものか。覚悟も無ければ資格も無い。

 短期間で王族のマナーを叩き込まれとはいえ、結局は付け焼き刃に過ぎない。そんなもんはいずれボロが出るだろう。それもきっと大事な場面で。
 
 元々がなんちゃって貴族みたいなもんなんだから、積み上げて来た貴族的なものがなにも無いのだから当然だ。

 それにだ、そもそもあの色ボケ王子は信用ならない。結婚なんかしたら間違いなく浮気に悩まされることになるだろう。そんな未来はご免蒙りたい。

「やっぱり男は誠実なのが一番だよね...」

 そう呟きながらペンを走らせていると、ライラは次第に熱中して時間を忘れていった。

 コンコン

 控え目なノックの音が部屋の中に響く。ハッと顔を上げたライラは、いつの間にか外が真っ暗になっていることに気が付いた。

「ライラさん? いらっしゃいますか?」

 ファリスの声がドア越しに聞こえて来た。

「あ、はいはい!」

 ライラがドアを開けると、ホッとしたような表情を浮かべたファリスが居た。

「あぁ、良かった...夕食の時間になっても食堂にいらっしゃらないから、なにかあったのかと心配で...」

「ご心配をお掛けしてすいません! 執筆に夢中になってたら時間を忘れてました! 行きましょうか!」

 ライラは照れ隠しで早口になりながらファリスと共に食堂へ向かった。
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