104 / 171
104
しおりを挟む
夕食後、ミハエルは詰め所に姿を現した。
「どうだ? 騎士団長からなにか連絡はあったか?」
「いえ、まだなにも」
「そうか」
「ただ、行動を起こすとしたら夜陰に紛れてでしょうから、もうそろそろ何らかの動きがあると思われます」
「なるほどな」
「なにか動きがありましたらすぐにお知らせ致します」
「頼む。ところで、例の裏切り者はまだ黙秘したままか?」
「えぇ、往生際が悪いことにまだ黙りを決め込んでいます」
「そうか。そっちも引き続きよろしく頼む」
「分かりました」
「それと、ドロシー嬢母娘は無事に隠れ家に着いたか?」
「はい、そちらは恙無く」
「良かった」
ミハエルはホッと胸を撫で下ろした。
「もう大丈夫だとは思うが、念のためラングレー公を拘束するまでは周囲の警戒を怠るなよ?」
「心得ております」
用心するに越したことはない。なにせ敵は、近衛兵の中にまで手を伸ばせる程の相手なのだから。
「どうやら今夜は持久戦になりそうだな。皆、疲れているとは思うが後もう一踏ん張りだ。気を引き締めて掛かってくれ」
ミハエルは詰め所に詰めている近衛兵達を見渡しながらそう言った。
『了解です!』
全員の力強い返事に満足しながら、ミハエルは詰め所を後にした。
◇◇◇
翌朝、ミハエルが自室で目を覚ました頃のことだった。
「殿下、失礼致します」
近衛兵の一人が部屋に入って来た。
「どうなった?」
「はい、つい先程騎士団長より報告がありました。逃亡を企てようとしていたラングレー公を拘束したとのことです」
「そうか! 良くやってくれた!」
ミハエルは喜色を満面に浮かべた。
「それで? なにか白状したか?」
「いえ、それはまだのようです。取り敢えず、ラングレー公と共にこちらへ向かうとのことでした」
「そうか。ラングレー公爵領からなら早ければ午後には着くか?」
「えぇ、多分そのくらいでしょう」
「分かった。尋問は僕自身が行うことにしよう」
「殿下御自らですか?」
「当然だ。なにせ相手は腐っても公爵家なんだからな」
ミハエルはキッパリと言い切った。
「あぁ、なるほど。分かりました」
「しかし、そうなると午後の予定はキャンセルしないとマズイな...」
「なにか特別なご予定でも?」
「あぁ、例の個人面談の予定を入れていた」
「あ、ソニア嬢とでしたっけ?」
「そうだ」
「騎士団長がいつ到着するか分からないんですから、予定通り面談なさったら如何です? 到着したらご連絡致しますよ?」
近衛兵にそう言われたミハエルはちょっと考え込んだ。
「いや、それだとソニア嬢に対して失礼に当たるだろうから、やっぱり面談は日を改めることにしよう」
「どうだ? 騎士団長からなにか連絡はあったか?」
「いえ、まだなにも」
「そうか」
「ただ、行動を起こすとしたら夜陰に紛れてでしょうから、もうそろそろ何らかの動きがあると思われます」
「なるほどな」
「なにか動きがありましたらすぐにお知らせ致します」
「頼む。ところで、例の裏切り者はまだ黙秘したままか?」
「えぇ、往生際が悪いことにまだ黙りを決め込んでいます」
「そうか。そっちも引き続きよろしく頼む」
「分かりました」
「それと、ドロシー嬢母娘は無事に隠れ家に着いたか?」
「はい、そちらは恙無く」
「良かった」
ミハエルはホッと胸を撫で下ろした。
「もう大丈夫だとは思うが、念のためラングレー公を拘束するまでは周囲の警戒を怠るなよ?」
「心得ております」
用心するに越したことはない。なにせ敵は、近衛兵の中にまで手を伸ばせる程の相手なのだから。
「どうやら今夜は持久戦になりそうだな。皆、疲れているとは思うが後もう一踏ん張りだ。気を引き締めて掛かってくれ」
ミハエルは詰め所に詰めている近衛兵達を見渡しながらそう言った。
『了解です!』
全員の力強い返事に満足しながら、ミハエルは詰め所を後にした。
◇◇◇
翌朝、ミハエルが自室で目を覚ました頃のことだった。
「殿下、失礼致します」
近衛兵の一人が部屋に入って来た。
「どうなった?」
「はい、つい先程騎士団長より報告がありました。逃亡を企てようとしていたラングレー公を拘束したとのことです」
「そうか! 良くやってくれた!」
ミハエルは喜色を満面に浮かべた。
「それで? なにか白状したか?」
「いえ、それはまだのようです。取り敢えず、ラングレー公と共にこちらへ向かうとのことでした」
「そうか。ラングレー公爵領からなら早ければ午後には着くか?」
「えぇ、多分そのくらいでしょう」
「分かった。尋問は僕自身が行うことにしよう」
「殿下御自らですか?」
「当然だ。なにせ相手は腐っても公爵家なんだからな」
ミハエルはキッパリと言い切った。
「あぁ、なるほど。分かりました」
「しかし、そうなると午後の予定はキャンセルしないとマズイな...」
「なにか特別なご予定でも?」
「あぁ、例の個人面談の予定を入れていた」
「あ、ソニア嬢とでしたっけ?」
「そうだ」
「騎士団長がいつ到着するか分からないんですから、予定通り面談なさったら如何です? 到着したらご連絡致しますよ?」
近衛兵にそう言われたミハエルはちょっと考え込んだ。
「いや、それだとソニア嬢に対して失礼に当たるだろうから、やっぱり面談は日を改めることにしよう」
12
お気に入りに追加
3,710
あなたにおすすめの小説
契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様
日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。
春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。
夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。
真実とは。老医師の決断とは。
愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。
全十二話。完結しています。
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-
七瀬菜々
恋愛
ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。
両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。
もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。
ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。
---愛されていないわけじゃない。
アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。
しかし、その願いが届くことはなかった。
アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。
かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。
アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。
ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。
アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。
結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。
望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………?
※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。
※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。
※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる