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「それと騎士団長は『ちょっと気になる事があるから』とも言っていました」

「気になる事?」

 ミハエルは首を捻った。

「えぇ、これは例の裏切り者の尋問を終えた後だったんですが」

「あぁ、そう言えば聞くのを忘れていたな。どうなったんだ?」

 ミハエルは完全に失念していた。

「まだ口を割りません」

「そうか、中々にしぶといな。で? 気になる事というのは?」

「もしかしたら、時間稼ぎをしているのではないかという事です」

「時間稼ぎとは?」

「事が露見しそうになって最早逃れられないとみたラングレー公が、隣国に亡命を企てているかも知れない可能性があるという事です」

「亡命...そうか...確かに...その可能性があるのを失念していたな...」

 ミハエルは唇を噛んだ。

「えぇ、なにせ裏切り者の実家はラングレー公爵家の寄子ですからね。もしもの場合には、寄親であるラングレー公爵家を身を挺してでも庇おうとするんじゃないかと。幼少時からそうするように教育を受けて来ているんではないかと」

「なるほどな...そしてこの場合は、ラングレー公が逃げるための時間を稼ぐ事が、忠誠の証かも知れないという事なんだな...」

 ミハエルは心から納得した。

「えぇ、騎士団長はそう感じたそうです。恐らくですが、裏切り者はラングレー公と定時連絡を取り合っていたと思われますので、それが途絶えたとなるとラングレー公は身の危険を察知した可能性があります。ですので、一刻の猶予もないとみて急ぎ現地に飛んだという訳です」

「そう言う事か...だとすれば、例の暗殺者も同じように定時連絡というか成果報告という形で、ラングレー公と連絡を取り合っていた可能性もあるよな..」

「えぇ、そう思います。それがどっちも途絶えたとなると...」

「なにか不手際があったのだと、ラングレー公が気付いてもおかしくはないという事か...」

 ミハエルは頭を振った。

「えぇ、そう言う事です」

「そして隣国との繋がりが深いラングレー公は、いざという時に備えて亡命の手筈を整えていたと...」

「えぇ、頭の回る悪党というのは、悪事に手を染める前に予め逃走ルートを確保おくものですからね。ラングレー公がバカでない限りそうしている事でしょうよ」

「なるほどな...状況は良く分かった。引き続きよろしく頼む。報告は随時上げてくれ」

「分かりました」

 そう言ってミハエルは詰め所を後にした。そして公務を控えている自室へと向かいながら、遠くのラングレー公爵領へと思いを馳せていた。
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