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 その日の朝食の席にミハエルは現れなかった。

 候補者達はそれぞれ思い思いに時を過ごしていたが、なんとなくお互いがお互いを探るような雰囲気があり、ライラとしてはなんだか落ち着かなかった。

「フゥ...」

 朝食後、自分の部屋に戻ったライラはため息を一つ吐いた。長かった候補者合宿も残りあと一週間あまり。

 この間、様々なことがあった。振り返ってみるとまさに「事実は小説より奇なり」を地で行くような怒涛の展開の連続だった。

 としてもじゃないが、こんな物語書こうとしたって書けやしない。ライラは一小説家として痛切にそう感じていた。 

 この物語が一体どのような結末を迎えるのか想像も付かない。ライラは窓の外の景色を眺めながら、今後の展開に思いを馳せていた。


◇◇◇


「殿下、イザベラ殿を保護することに成功したそうです」

 午後になって近衛兵の一人がそう報告して来た。近衛兵の詰め所で待機していたミハエルはホッと胸を撫で下ろした。

「そうか。ご苦労様。良くやってくれた」

「イザベラ殿はどこに移送しますか?」

 そう問われたミハエルはちょっと考えた後、

「ここに連れて来てくれ」

 徐にそう言った。

「よろしいのですか?」

「構わん。ドロシー嬢を早く安心させてやりたいからな。連れて来たらすぐにドロシー嬢と会わせてやれ」

「分かりました」

「それと近衛師団で使っている隠れ家があるよな?」

「はい、王都に何ヵ所かありますが。それがなにか?」

「その内のどこかにドロシー嬢母娘を住まわせることにする。準備しておけ。それと偽りの身分を二人分用意することも忘れるな」

「了解しました」

 指示を受けた近衛兵が出て行ったのと入れ違いに、騎士団長が詰め所へとやって来た。

「殿下、どうやら裏切り者が同定できそうです」

「そうか。誰だ?」

「ラングレー公爵家が寄親になっている伯爵家の次男坊で、ウチに配属されたばかりの新人です。最初っから妙に金遣いが荒かったそうです」

「なるほどな。そういった繋がりがあったか」

「今、拘束して尋問を開始しているところです。まぁ、間違いないと思いますのですぐに白状することでしょう」

「分かった。引き続き頼む」

「分かりました」

「ちなみに騎士団長、その他のことも聞いているか?」  

「はい、ドロシー嬢の件とラングレー公爵領の件ですよね?」

「あぁ、そうだ。ドロシー嬢の方は片が付いたが、ラングレー公爵領の方はこれからだ。気を引き締めてかかれ」

「了解しました」

 騎士団長との話を終えたミハエルは、ドロシーを拘束している部屋に向かった。

 
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