王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います

真理亜

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 その日、夜遅くのことだった。

 ドロシーが拘束されている部屋のドアが、音を立てずにゆっくりと開いた。すると何者かがそっと部屋の中に侵入して来た。

 当然ながら部屋の中は真っ暗である。だがその何者かは、迷うことなく忍び足で部屋の隅に置かれている簡易ベッドへと向かった。そしてやおら腰に差していた剣を抜くと、勢いを込めてベッドの膨らみへと突き刺した。

「なにっ!?」

 確実に仕留めたと思ったが、剣に伝わる僅かな違和感に何者かは思わず声を上げてしまった。

「そこまでだ!」

 そこにミハエルの鋭い声が響く。次の瞬間、部屋の中に灯りが点った。何者かは眩しさに思わず手で目を覆った。
 
 暗闇では分からなかったが、その何者かは近衛兵の制服を身に纏っている。

「拘束しろ!」

 またしてもミハエルの鋭い声が響くと、部屋のあちこちに隠れていた近衛兵があっという間に何者かを拘束した。

「舌を噛もうとするかも知れん! 念のため猿轡をしておけ!」

 これはミハエルの隣に控えている近衛兵師団長が指示を下した。実際に舌を噛んで自決するのは難しいと言われてはいるが、用心に越したことはないだろう。

「残念だったな。貴様が狙ったドロシー嬢は別の部屋で寝てる。貴様のような暗殺者によって始末されては堪らんからな。寝る時は毎日違う部屋を使っているんだ。知らなかっただろう? なにせこのことを知っているのは僕と近衛師団長だけだからな」

 ミハエルの言葉に、猿轡を噛まされ言葉を発せない近衛兵の制服を着た何者かは、驚愕に目を見開きながら低く呻いた。

「近衛師団長、この男に見覚えは?」

 ミハエルがそう問い掛けると、

「いいえ、こんな男は我が近衛師団にはおりません」

 近衛師団長は即答した。

「そうか。となると、近衛兵の制服をどうやってか知らないが調達したということだな」

「簡単に調達できるような代物じゃないはずなんですが...」

 ミハエルの指摘に近衛師団長は首を捻った。

「まぁ、そこら辺は取り調べで追々明らかになるだろう。引っ立てろ!」

『ハッ!』

 ミハエルがそう指示を下すと、近衛兵の偽物を拘束した本物の近衛兵が引き摺るようにして連れて行った。

「フゥ...近衛師団長、お疲れ様...これで今夜からはお互いグッスリと眠れそうだな...アフッ...」
 
 そう、ミハエルが慢性的に寝不足だったのは、このように毎晩見張りをしていたからだった。

「だから何度も申し上げました通り、見張りは私共に任せて殿下はお休み頂いてよろしかったのですがね...」

 近衛師団長は今も眠そうにアクビを噛み殺しているミハエルに苦言を呈したが、

「そんな訳にはいかないさ。これは僕にとってのケジメでもあるんだからな」

 ミハエルはキッパリと言い切ったのだった。


 
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