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 コンコン

 ソニアはライラに謝るために、ライラの部屋のドアをノックしたのだが反応が無い。

 どうやらよっぽど怒っているようだ。

 コンコン!

 ソニアはもう一度、ちょっと強目にノックする。するとようやくドアが少しだけ開いた。

「やっほ♪」

 ソニアは努めて陽気に手を振るが、ドアの隙間から伺うライラからは相変わらずなんの反応も無い。ドアもそれ以上開くことはなかった。

「そんなに怒んないでよ~? ね? 取り敢えずさ、このドア開けてくんない~?」

 ソニアは両手を組んでお祈りポーズを取るが、やっぱりドアは開かない。

「...なにしに来たんですか?」

 その代わりにやっとライラが反応を返してくれた。だがそれは、未だかつて聞いたこともないほど低くて不機嫌丸出しといった口調だった。

「謝りに来たのよ。一先ず中に入れてくんない?」

「......」

 ドアは無言で開いた。ソニアは恐る恐る部屋の中に入った。

「...謝るってことは、やっぱりなにか仕込んでいたんですね?」

 ライラは腕を組んで不機嫌さを隠そうともせずに詰問した。

「まぁ確かに仕込みはしていたわよ。物理的にじゃなく心理的にだけどね」

「...心理的?」

 ライラは首を捻った。

「誰か一人、気になる人の名前を書けって言われたら、ドロシーさんとミシェルさんは間違いなくミハエル殿下の名前を書くでしょ? なにせ王妃候補としてこの合宿に来ているんだから」

「...そうするでしょうね...」

「つまりその時点で既にミハエル殿下は2票獲得している訳よね? そしてライラさんにぞっこんのミハエル殿下は間違いなくライラさんの名前を書くはず」

「...確かに...」

 実際、ソニアの言う通りになった。

「開票する前にミハエル殿下が2票、ライラさんが1票ってのはほぼ確実だった訳よ。あとは簡単、私とファリスさんがそれぞれミハエル殿下とライラさんの名前を書くだけで、二人がワンツーフィニッシュを決めるって寸法ね」

「...そんな簡単な方法で...」

 ライラはしてやられたという思いしかなかった。完全にソニアの術中に嵌まり、手の平の上で転がされていたのだと。

「ね? 分かってみれば簡単なことだったでしょ?」

「...私が誰の名前を書いても大勢に影響はなかったんですね...」

 ライラは諦観したように小さく呟いた。

「まぁそういうことね。どうよ? 中々のもんだったでしょ?」

 ソニアはしたり顔をして胸を張った。

「...なに偉そうにしてんですか?...謝りに来たんじゃなかったんですか?...」

 そんなソニアの姿を、ライラは胡乱気に睨み付けた。
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