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第2章 聖女と聖獣
第50話 エピローグ
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「なるほどな。とても信じられん話だが、こうして目の当たりにすれば否が応でも信じざるをえんな...」
リシャールによる長い説明を聞き終えた後、そう言ってエルヴインは重々しく頷いた。ちなみに今は地上に降りて砦の司令官室に居る。
「聖女様、まずはこのバカの暴走に関してお詫び申し上げます。それと一度は死を覚悟したこの戦いを勝利に導いて下さった事、深く感謝致します」
「い、いや、その...」
王太子に頭を下げられて、セイラはどうしていいのか分からずワタワタしている。リシャールはもう土下座はしていないが、バツの悪い表情を浮かべていた。
「それで今後の事だがリシャール、帝国軍は間違いない無く撤退したんだな?」
「は、はい。それはもう見事に尻尾巻いて逃げて行きました」
「フム、ここと同じ状況という事か。それを陛下に知らせたか?」
「あっ...」
「...知らせて無いのか、全く...真っ先に知らせるべきだろうに...」
「すいません...」
「まあいい、こっちの状況と合わせて連絡しよう。聖女様、大分外も暗くなって来ましたんで今夜はここにお泊まり頂き、明日にでも馬車をお出ししましょう」
「いや、タチアナが心配してるだろうからな。飛んで帰るよ」
「いやでも、これだけ暗くなったら危険じゃ?」
「大丈夫だろ。クロウは夜目も利くし」
「じゃ、じゃあ僕も...」
「何を言ってる? お前にはこれから説教タイムが待ってるだろ? 聖女様、お疲れ様でした。気を付けてお帰り下さい」
エルヴインにそれはもう良い笑顔で言われて、
「ひぃぃぃ!」
リシャールは絶叫し、
「は、はあ、それじゃ...」
セイラは曖昧に頷いた。
◇◇◇
セントライト王国の北側と南側で起きた国境紛争の顛末に関して、詳細を聞いた国王の反応は早かった。まずアズガルド帝国に対しては、宣戦布告なき侵略行為に対する謝罪と賠償金の要求を、ルーフェン王国に対しては、一方的に停戦協定を破棄した上での宣戦布告に対する謝罪と違約金の要求を即日行った。
両国とも自国の兵士達が黒い竜に追い返されたという報告は受けていたが、集団幻覚でも見たのだろうと一笑に付し謝罪も金の支払いにも応じなかった。それどころか再度侵攻しようとする動きを見せたので、国王は直ぐさま黒い竜が神獣であり我が国の守護聖獣でもあると大々的に喧伝した。
王宮前の大広場で、大勢の王都民の前に聖女タチアナを背中に乗せた黒い竜が現れると、観衆が熱狂的な声援で迎えた。この模様は瞬く間に世界中に広まり、セントライト王国は神獣に愛される国として人々に認識された。
タチアナはこの日のためにセイラの指導の元、クロウに乗る訓練を重ねて来た。最初は怖がっていたが、次第に慣れて今では自由自在にクロウを操れるようになった。
慌てたのは先の二国で、神獣の怒りを買ったりしたら最悪国が滅ぼされる。直ぐさまセントライト王国に謝罪と賠償金、違約金の支払いを行うと共に、不戦条約の締結をも打診してきた。
こうして一連の騒動は終息を迎えた。
◇◇◇
~~ 一ヶ月後 ~~
霊峰『ラース・ダシャン』の中腹にクロウが降り立った。背中にはタチアナではなくセイラが乗っている。
「クロウ、この辺りか?」
「クルル」
クロウが先導し少し歩くと、やがて小さな石碑が二つ並んでいるのが見えて来た。アンジュとシンのお墓である。
「遅くなって済まねぇな。色々とバタバタしててよ」
タチアナの飛行訓練や神殿での魔法指導(主に浄化系の魔法)など忙しくて、中々お墓参りに来れなかったのだ。セイラはアングレカムの花を供えお祈りした。
「これからは二人で末永く幸せな」
アングレカムの花言葉、それは...
『いつまでもあなたと一緒』
~ fin. ~
リシャールによる長い説明を聞き終えた後、そう言ってエルヴインは重々しく頷いた。ちなみに今は地上に降りて砦の司令官室に居る。
「聖女様、まずはこのバカの暴走に関してお詫び申し上げます。それと一度は死を覚悟したこの戦いを勝利に導いて下さった事、深く感謝致します」
「い、いや、その...」
王太子に頭を下げられて、セイラはどうしていいのか分からずワタワタしている。リシャールはもう土下座はしていないが、バツの悪い表情を浮かべていた。
「それで今後の事だがリシャール、帝国軍は間違いない無く撤退したんだな?」
「は、はい。それはもう見事に尻尾巻いて逃げて行きました」
「フム、ここと同じ状況という事か。それを陛下に知らせたか?」
「あっ...」
「...知らせて無いのか、全く...真っ先に知らせるべきだろうに...」
「すいません...」
「まあいい、こっちの状況と合わせて連絡しよう。聖女様、大分外も暗くなって来ましたんで今夜はここにお泊まり頂き、明日にでも馬車をお出ししましょう」
「いや、タチアナが心配してるだろうからな。飛んで帰るよ」
「いやでも、これだけ暗くなったら危険じゃ?」
「大丈夫だろ。クロウは夜目も利くし」
「じゃ、じゃあ僕も...」
「何を言ってる? お前にはこれから説教タイムが待ってるだろ? 聖女様、お疲れ様でした。気を付けてお帰り下さい」
エルヴインにそれはもう良い笑顔で言われて、
「ひぃぃぃ!」
リシャールは絶叫し、
「は、はあ、それじゃ...」
セイラは曖昧に頷いた。
◇◇◇
セントライト王国の北側と南側で起きた国境紛争の顛末に関して、詳細を聞いた国王の反応は早かった。まずアズガルド帝国に対しては、宣戦布告なき侵略行為に対する謝罪と賠償金の要求を、ルーフェン王国に対しては、一方的に停戦協定を破棄した上での宣戦布告に対する謝罪と違約金の要求を即日行った。
両国とも自国の兵士達が黒い竜に追い返されたという報告は受けていたが、集団幻覚でも見たのだろうと一笑に付し謝罪も金の支払いにも応じなかった。それどころか再度侵攻しようとする動きを見せたので、国王は直ぐさま黒い竜が神獣であり我が国の守護聖獣でもあると大々的に喧伝した。
王宮前の大広場で、大勢の王都民の前に聖女タチアナを背中に乗せた黒い竜が現れると、観衆が熱狂的な声援で迎えた。この模様は瞬く間に世界中に広まり、セントライト王国は神獣に愛される国として人々に認識された。
タチアナはこの日のためにセイラの指導の元、クロウに乗る訓練を重ねて来た。最初は怖がっていたが、次第に慣れて今では自由自在にクロウを操れるようになった。
慌てたのは先の二国で、神獣の怒りを買ったりしたら最悪国が滅ぼされる。直ぐさまセントライト王国に謝罪と賠償金、違約金の支払いを行うと共に、不戦条約の締結をも打診してきた。
こうして一連の騒動は終息を迎えた。
◇◇◇
~~ 一ヶ月後 ~~
霊峰『ラース・ダシャン』の中腹にクロウが降り立った。背中にはタチアナではなくセイラが乗っている。
「クロウ、この辺りか?」
「クルル」
クロウが先導し少し歩くと、やがて小さな石碑が二つ並んでいるのが見えて来た。アンジュとシンのお墓である。
「遅くなって済まねぇな。色々とバタバタしててよ」
タチアナの飛行訓練や神殿での魔法指導(主に浄化系の魔法)など忙しくて、中々お墓参りに来れなかったのだ。セイラはアングレカムの花を供えお祈りした。
「これからは二人で末永く幸せな」
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~ fin. ~
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