聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜

文字の大きさ
上 下
50 / 51
第2章 聖女と聖獣

第50話 エピローグ

しおりを挟む
「なるほどな。とても信じられん話だが、こうして目の当たりにすれば否が応でも信じざるをえんな...」

 リシャールによる長い説明を聞き終えた後、そう言ってエルヴインは重々しく頷いた。ちなみに今は地上に降りて砦の司令官室に居る。

「聖女様、まずはこのバカの暴走に関してお詫び申し上げます。それと一度は死を覚悟したこの戦いを勝利に導いて下さった事、深く感謝致します」

「い、いや、その...」

 王太子に頭を下げられて、セイラはどうしていいのか分からずワタワタしている。リシャールはもう土下座はしていないが、バツの悪い表情を浮かべていた。

「それで今後の事だがリシャール、帝国軍は間違いない無く撤退したんだな?」

「は、はい。それはもう見事に尻尾巻いて逃げて行きました」

「フム、ここと同じ状況という事か。それを陛下に知らせたか?」

「あっ...」

「...知らせて無いのか、全く...真っ先に知らせるべきだろうに...」

「すいません...」

「まあいい、こっちの状況と合わせて連絡しよう。聖女様、大分外も暗くなって来ましたんで今夜はここにお泊まり頂き、明日にでも馬車をお出ししましょう」

「いや、タチアナが心配してるだろうからな。飛んで帰るよ」

「いやでも、これだけ暗くなったら危険じゃ?」

「大丈夫だろ。クロウは夜目も利くし」

「じゃ、じゃあ僕も...」

「何を言ってる? お前にはこれから説教タイムが待ってるだろ? 聖女様、お疲れ様でした。気を付けてお帰り下さい」

 エルヴインにそれはもう良い笑顔で言われて、

「ひぃぃぃ!」

 リシャールは絶叫し、

「は、はあ、それじゃ...」

 セイラは曖昧に頷いた。


◇◇◇


 セントライト王国の北側と南側で起きた国境紛争の顛末に関して、詳細を聞いた国王の反応は早かった。まずアズガルド帝国に対しては、宣戦布告なき侵略行為に対する謝罪と賠償金の要求を、ルーフェン王国に対しては、一方的に停戦協定を破棄した上での宣戦布告に対する謝罪と違約金の要求を即日行った。

 両国とも自国の兵士達が黒い竜に追い返されたという報告は受けていたが、集団幻覚でも見たのだろうと一笑に付し謝罪も金の支払いにも応じなかった。それどころか再度侵攻しようとする動きを見せたので、国王は直ぐさま黒い竜が神獣であり我が国の守護聖獣でもあると大々的に喧伝した。

 王宮前の大広場で、大勢の王都民の前に聖女タチアナを背中に乗せた黒い竜が現れると、観衆が熱狂的な声援で迎えた。この模様は瞬く間に世界中に広まり、セントライト王国は神獣に愛される国として人々に認識された。

 タチアナはこの日のためにセイラの指導の元、クロウに乗る訓練を重ねて来た。最初は怖がっていたが、次第に慣れて今では自由自在にクロウを操れるようになった。

 慌てたのは先の二国で、神獣の怒りを買ったりしたら最悪国が滅ぼされる。直ぐさまセントライト王国に謝罪と賠償金、違約金の支払いを行うと共に、不戦条約の締結をも打診してきた。

 こうして一連の騒動は終息を迎えた。


◇◇◇


~~ 一ヶ月後 ~~

 霊峰『ラース・ダシャン』の中腹にクロウが降り立った。背中にはタチアナではなくセイラが乗っている。
 
「クロウ、この辺りか?」

「クルル」

 クロウが先導し少し歩くと、やがて小さな石碑が二つ並んでいるのが見えて来た。アンジュとシンのお墓である。

「遅くなって済まねぇな。色々とバタバタしててよ」

 タチアナの飛行訓練や神殿での魔法指導(主に浄化系の魔法)など忙しくて、中々お墓参りに来れなかったのだ。セイラはアングレカムの花を供えお祈りした。

「これからは二人で末永く幸せな」

 アングレカムの花言葉、それは...


『いつまでもあなたと一緒』


~ fin. ~
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

処理中です...