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第2章 聖女と聖獣
第46話 浄化
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「これが大賢者様の伝説の真実...お伽噺じゃなかったのか...」
「本当に邪竜が封印されていたなんて...それも千年も...」
「梓巫女という存在も守っていたという国も聞いた事が...」
「セイラ様が梓巫女の生まれ変わりって...」
「クロウって伸縮自在なんだ...」
梓巫女と邪竜との千年に渡る因縁という壮大なストーリーをセイラから聞かされた面々は、それぞれが様々な感慨を抱き感想を口にした。最後の一人はややズレているようだが...
まだ騒然としている場を年長者であるゴドウィンが静める。
「皆さん、色々な意見がお有りでしょうし、私自身も含めてまだ全てを受け入れられないでしょうが、まずは今後の方針を決めるのが先でしょう。如何ですかな、殿下?」
そう、まだ何も解決していないのだ。リシャールはゴドウィンに感謝して、
「大神官様の仰る通りです。瘴気に関しては元を絶ったので、これ以上濃くなる事は無いと思いますが、神官様方には引き続き浄化をお願いします」
「承知しました」
リシャールは騎士達の方に向き直って、
「お前達は神官様方の護衛をしつつ、町の住民の救助にも当たれ。あれだけの激しい揺れだ。建物の倒壊など被害が出ているだろう」
「はっ! 了解致しました!」
「それと帝国軍に関してだが...」
「被害? 帝国軍?」
それまでポカンとしながら聞いていたセイラが急に反応する。リシャールが掻い摘んで状況を説明すると、
「私にも手伝わせてくれ。回復魔法は得意だからな」
「大丈夫かい? あれだけの激しい戦いをした後なんだ。疲れているんじゃ?」
「それが全然平気なんだ。寧ろ力が漲ってる感じで」
「あ、そうなんだ...じゃあ、お願いしようかな...」
「おうっ! それと帝国軍が居る場所ってのはどこなんだ?」
「山の中腹の辺りらしいけど、それが?」
「クロウに乗って上空から偵察して来ようか?」
「いやまあそれは...助かるけど危なくない?」
「大丈夫だ。攻撃されてもクロウには効かねぇよ」
まぁ確かに。あんなデカい竜相手に勝っちゃうくらいだし、人間の攻撃なんて屁でもないかな。
「分かった。協力してくれ。それじゃあ皆、町に戻ろう」
◇◇◇
初めてエインツの町を訪れたセイラは、まだ色濃く残っている瘴気に顔を顰める。
「うっ!」
一度体験しているリシャール達は、平気とはいかないまでも慣れてしまったのかそれ程キツくは感じないが、初体験のセイラはキツかったようだ。鼻と口を抑えながら、
「悪い、先に浄化して良いか?」
いや、それは神官達がとリシャールは言おうとしたが、それを待たずにセイラは地面に手を付いて、
『セイントヒール!』
そう呪文を唱えた瞬間、エインツの町全体を覆い尽くす勢いで浄化の聖なる光が広がり、あっという間に辺り一面を清浄な空気に変えてしまった。皆が呆気に取られている中、
「あ~ スッキリしたぁ~!」
何事もなかったかのようなセイラの声が響いた。
その力を目の当たりにした神官達は、
「凄い...これが大聖女様のお力...」「我々の存在意義って一体...」「何の為に苦労してここまで来たんだ...」「なんかあんなに疲れてた自分の体まで軽くなったような...」「惚れた...結婚したい...」
称賛とも呆れとも取れる発言が相次いだが、リシャールはこういう光景を段々見慣れて来たなぁなんて思って見ていた。それと確かに、強行軍だった時の疲れが取れて体が楽になった気がする。気分も晴れやかで清々しい感じだ。ただ相変わらず最後の奴はなんかズレていた。
リシャールがそんな事を考えている時、町中でも異変が起こっていた。建物が倒壊した時に逃げ遅れて怪我をした人、落下物に当たって怪我をした人、逃げる時に慌てて転んで怪我をした人等々の怪我も一瞬で治ったという。奇跡を目の当たりにした人々は口々にこう叫ぶ。
「「「「「 聖女様の奇跡だっ! 」」」」」
「ふぇ?」
当の聖女様は意味が分からずポカンとしている訳だが、これもまた仕様である。
「本当に邪竜が封印されていたなんて...それも千年も...」
「梓巫女という存在も守っていたという国も聞いた事が...」
「セイラ様が梓巫女の生まれ変わりって...」
「クロウって伸縮自在なんだ...」
梓巫女と邪竜との千年に渡る因縁という壮大なストーリーをセイラから聞かされた面々は、それぞれが様々な感慨を抱き感想を口にした。最後の一人はややズレているようだが...
まだ騒然としている場を年長者であるゴドウィンが静める。
「皆さん、色々な意見がお有りでしょうし、私自身も含めてまだ全てを受け入れられないでしょうが、まずは今後の方針を決めるのが先でしょう。如何ですかな、殿下?」
そう、まだ何も解決していないのだ。リシャールはゴドウィンに感謝して、
「大神官様の仰る通りです。瘴気に関しては元を絶ったので、これ以上濃くなる事は無いと思いますが、神官様方には引き続き浄化をお願いします」
「承知しました」
リシャールは騎士達の方に向き直って、
「お前達は神官様方の護衛をしつつ、町の住民の救助にも当たれ。あれだけの激しい揺れだ。建物の倒壊など被害が出ているだろう」
「はっ! 了解致しました!」
「それと帝国軍に関してだが...」
「被害? 帝国軍?」
それまでポカンとしながら聞いていたセイラが急に反応する。リシャールが掻い摘んで状況を説明すると、
「私にも手伝わせてくれ。回復魔法は得意だからな」
「大丈夫かい? あれだけの激しい戦いをした後なんだ。疲れているんじゃ?」
「それが全然平気なんだ。寧ろ力が漲ってる感じで」
「あ、そうなんだ...じゃあ、お願いしようかな...」
「おうっ! それと帝国軍が居る場所ってのはどこなんだ?」
「山の中腹の辺りらしいけど、それが?」
「クロウに乗って上空から偵察して来ようか?」
「いやまあそれは...助かるけど危なくない?」
「大丈夫だ。攻撃されてもクロウには効かねぇよ」
まぁ確かに。あんなデカい竜相手に勝っちゃうくらいだし、人間の攻撃なんて屁でもないかな。
「分かった。協力してくれ。それじゃあ皆、町に戻ろう」
◇◇◇
初めてエインツの町を訪れたセイラは、まだ色濃く残っている瘴気に顔を顰める。
「うっ!」
一度体験しているリシャール達は、平気とはいかないまでも慣れてしまったのかそれ程キツくは感じないが、初体験のセイラはキツかったようだ。鼻と口を抑えながら、
「悪い、先に浄化して良いか?」
いや、それは神官達がとリシャールは言おうとしたが、それを待たずにセイラは地面に手を付いて、
『セイントヒール!』
そう呪文を唱えた瞬間、エインツの町全体を覆い尽くす勢いで浄化の聖なる光が広がり、あっという間に辺り一面を清浄な空気に変えてしまった。皆が呆気に取られている中、
「あ~ スッキリしたぁ~!」
何事もなかったかのようなセイラの声が響いた。
その力を目の当たりにした神官達は、
「凄い...これが大聖女様のお力...」「我々の存在意義って一体...」「何の為に苦労してここまで来たんだ...」「なんかあんなに疲れてた自分の体まで軽くなったような...」「惚れた...結婚したい...」
称賛とも呆れとも取れる発言が相次いだが、リシャールはこういう光景を段々見慣れて来たなぁなんて思って見ていた。それと確かに、強行軍だった時の疲れが取れて体が楽になった気がする。気分も晴れやかで清々しい感じだ。ただ相変わらず最後の奴はなんかズレていた。
リシャールがそんな事を考えている時、町中でも異変が起こっていた。建物が倒壊した時に逃げ遅れて怪我をした人、落下物に当たって怪我をした人、逃げる時に慌てて転んで怪我をした人等々の怪我も一瞬で治ったという。奇跡を目の当たりにした人々は口々にこう叫ぶ。
「「「「「 聖女様の奇跡だっ! 」」」」」
「ふぇ?」
当の聖女様は意味が分からずポカンとしている訳だが、これもまた仕様である。
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