39 / 51
第2章 聖女と聖獣
第39話 対峙
しおりを挟む
『ほら、ちゃんと目を開けて前を見なさい』
そう言われてセイラが恐る恐る目を開けると、凄い勢いで周りの景色が飛んで行く。かなりのスピードが出ていると思われるが、風圧をあまり感じない。
ちょっとだけ余裕が出て来たセイラは、いい加減ちゃんと聞かなければと思い、
「なぁ、あんた一体誰だよ?」
『あら、夢で会ってるはずよ?』
「へ? あ、もしかして巫女さん?」
『えぇ、梓巫女。名前はアンジュよ』
あの巫女さんの衣装可愛かったよなぁ、なんてセイラはつい場違いな事を思った。
「その巫女さんがなんで私に?」
『今に分かるわ。それよりあなた、弓を持ってない?』
「も、持ってるけど?」
セイラはリュックからクロスボウを取り出した。
『よろしい。いつでも撃てるように準備なさい』
なんでこいつ偉そうなんだっ!? 釈然としないまでも言われた通り弓の調整をするセイラだった。
◇◇◇
灰色の竜はゆっくりと腮を開き、魔力を収束させる。竜の口元から目映い光が溢れ、それが徐々に大きくなって行く。
ブレス!? クロウの時と同じ、いやそれよりも遥かに強大な...逃げなければっ! そう思うものの体は石化したように動かない。
諦めて目を閉じようとした瞬間、後方から凄い勢いで飛んで来た何かが竜を直撃した。放たれる直前だったブレスが霧散する。
何が起こったのか訝しんでいるリシャールの耳に、ここに居るはずのない者の声が響く。
「リシャール~!!!」
驚いて振り返ったリシャールの目に飛び込んで来たのは、黒光りする巨大な竜の背に乗ったセイラの姿だった。
夢を見ているのかと思った...王都で別れたはずのセイラが何故ここに? しかも巨大な黒い竜の背に乗っている。あれはまさかクロウ? なんであんなに大きく?
リシャールは思考が纏まらず混乱していた。そこへ竜の背からセイラの声が響く。
「この竜は私が相手するっ! リシャール、皆を出来るだけ遠くに避難させろっ!」
その声にやっと思考が追い付いた...が、避難しろだって? セイラを置いて? あんなバカデカい竜の相手をさせて? 冗談じゃ無いっ! そんなこと出来る訳が無いっ! セイラに守られるなんて本末転倒じゃないかっ! 僕が、いや僕達がセイラを守るべき立場なのにっ!...そう叫びたかった。
だが自分の意思に反して口から出た言葉は、
「...住民を避難させるぞっ! 急げっ! 動けない者には手を貸してやれっ!」
「で、殿下っ! 本当によろしいのですか!?」
レイモンドが慌ててそう言ってくるが、リシャールにはもう分かっていた。
「いいんだ。我々がここに居ても何の役にも立たない。むしろ邪魔になる。さあ避難を開始するぞ!」
そう、我々は足手纏いにしかならないと、悔しいがリシャールには理解出来てしまったのだ。だったらセイラが戦い易くなるように、我々は引っ込んでいるべきだろう。
後ろ髪を引かれながらリシャールは心から祈った。
(セイラ...どうか無事で...)
そう言われてセイラが恐る恐る目を開けると、凄い勢いで周りの景色が飛んで行く。かなりのスピードが出ていると思われるが、風圧をあまり感じない。
ちょっとだけ余裕が出て来たセイラは、いい加減ちゃんと聞かなければと思い、
「なぁ、あんた一体誰だよ?」
『あら、夢で会ってるはずよ?』
「へ? あ、もしかして巫女さん?」
『えぇ、梓巫女。名前はアンジュよ』
あの巫女さんの衣装可愛かったよなぁ、なんてセイラはつい場違いな事を思った。
「その巫女さんがなんで私に?」
『今に分かるわ。それよりあなた、弓を持ってない?』
「も、持ってるけど?」
セイラはリュックからクロスボウを取り出した。
『よろしい。いつでも撃てるように準備なさい』
なんでこいつ偉そうなんだっ!? 釈然としないまでも言われた通り弓の調整をするセイラだった。
◇◇◇
灰色の竜はゆっくりと腮を開き、魔力を収束させる。竜の口元から目映い光が溢れ、それが徐々に大きくなって行く。
ブレス!? クロウの時と同じ、いやそれよりも遥かに強大な...逃げなければっ! そう思うものの体は石化したように動かない。
諦めて目を閉じようとした瞬間、後方から凄い勢いで飛んで来た何かが竜を直撃した。放たれる直前だったブレスが霧散する。
何が起こったのか訝しんでいるリシャールの耳に、ここに居るはずのない者の声が響く。
「リシャール~!!!」
驚いて振り返ったリシャールの目に飛び込んで来たのは、黒光りする巨大な竜の背に乗ったセイラの姿だった。
夢を見ているのかと思った...王都で別れたはずのセイラが何故ここに? しかも巨大な黒い竜の背に乗っている。あれはまさかクロウ? なんであんなに大きく?
リシャールは思考が纏まらず混乱していた。そこへ竜の背からセイラの声が響く。
「この竜は私が相手するっ! リシャール、皆を出来るだけ遠くに避難させろっ!」
その声にやっと思考が追い付いた...が、避難しろだって? セイラを置いて? あんなバカデカい竜の相手をさせて? 冗談じゃ無いっ! そんなこと出来る訳が無いっ! セイラに守られるなんて本末転倒じゃないかっ! 僕が、いや僕達がセイラを守るべき立場なのにっ!...そう叫びたかった。
だが自分の意思に反して口から出た言葉は、
「...住民を避難させるぞっ! 急げっ! 動けない者には手を貸してやれっ!」
「で、殿下っ! 本当によろしいのですか!?」
レイモンドが慌ててそう言ってくるが、リシャールにはもう分かっていた。
「いいんだ。我々がここに居ても何の役にも立たない。むしろ邪魔になる。さあ避難を開始するぞ!」
そう、我々は足手纏いにしかならないと、悔しいがリシャールには理解出来てしまったのだ。だったらセイラが戦い易くなるように、我々は引っ込んでいるべきだろう。
後ろ髪を引かれながらリシャールは心から祈った。
(セイラ...どうか無事で...)
0
お気に入りに追加
293
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください
mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。
「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」
大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です!
男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。
どこに、捻じ込めると言うのですか!
※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる