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第2章 聖女と聖獣
第33話 出陣
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エインツの町からの急報を受け、王宮では直ちに御前会議が召集された。
国王ヨーゼフ二世は集った面々を見渡しながら重々しく告げる。
「エインツの町における瘴気の蔓延とアズガルド帝国の侵攻、南の砦におけるルーフェン王国の挑発行為、タイミングを合わせたかのような此度の二件、到底偶然とは思えぬ。故にこれらは我が国へ二正面作戦を強いる侵略行為と断ずる。我が国家存亡の危機と言えよう」
会議室内がシーンと静まり返る。国王は矢継ぎ早に指示を下す。
「リシャール、直ちに一個師団を率いてエインツの町へ出陣せよ。瘴気を祓うため、神殿に協力を仰ぐことも忘れるな」
「はっ! 了解致しました!」
「軍務卿、南の砦へ一個師団の更なる増援を行え」
「はっ! 直ちに!」
「騎士団長、王都周辺並びに神殿周りの警備を強化せよ」
「はっ! 畏まりました!」
「各員、より一層の奮起を期待する」
全員が立ち上がって敬礼する。
「リシャール、ちょっと待て」
退出しようとした所を国王に呼び止められた。
「エインツの町を覆う瘴気はかなり濃いと聞く。聖女様に同行して貰えれば心強いと思うが...聖女様の身を危険に晒すことにもなる。なのでその判断はお前に任せようと思う」
それは国王としてではなく、一人の父親としての立場から掛けた言葉であるように感じられ、こんな時だと言うのにリシャールは少しだけ嬉しくなった。
「ありがとうございます。神殿の方々とも良く相談してみます」
とは言ったものの、リシャールの腹は既に決まっている。
◇◇◇
神殿の会議室にゴドウィン大神官を始めとする神官全員が集まっていた。
リシャールは開口一番、
「エインツの町に蔓延っている瘴気の浄化にご協力頂きたい。出来るだけ多くの方々にご参加頂きたいが、帝国軍の侵攻もあり危険を伴います。まずは希望者を募りたいと思いますので挙手願います」
第2王子という立場からすれば、もっと強引に決めても良かっただろうが、リシャールは敢えて神殿側に選択権を与えた。今後も神殿とは良い関係を築いていきたいし、この後の話をし易くするためでもある。
周りを伺いながら何人かの神官が手を挙げてくれた。それを見て頷きながらリシャールは言った。
「ちなみにに今回、危険なので聖女様にはご遠慮頂きます」
そう、こうすれば角が立たない。リシャールは最初からタチアナとそしてセイラを連れて行くつもりはなかった。だが最初にそれを言ってしまうと、聖女が行かないなら自分も行かなくても良いんじゃないか、という空気になると思った。
誰だって危険だと分かっている所になんか行きたくはないだろうから。だから敢えて先に参加者を募ることにした。
これで少なくとも嫌々参加するという人は居ないだろう。リシャールが満足していると、意外な所から援軍が現れた。
「では私も参加しましょうかな」
ゴドウィン大神官が手を挙げていた。
「だ、大神官様!? いけませんっ! 危険ですっ!」
カリム神官が慌てて言った。ちなみに彼は手を挙げていない。
「なあに、老い先短い身、危険な事なぞ怖くありません。それに聖女様に救って頂いた命です。聖女様の身代わりになれるというのなら、これ程名誉な事はございませんよ」
「し、しかし大神官様がいらしゃらなかったら神殿はどうなります!?」
「後の事は若い方々にお任せしますよ」
「そ、そんな大神官様...」
カリム神官は項垂れてしまった。
「......」
リシャールはもう言葉も出ない。自分はただタチアナとセイラの身を案ずるあまり、小賢しい策を弄したというのに、この方はそれを見据えた上で言って下さったのだ。まだまだこの方には遠く及ばないな...
リシャールはただただ頭を下げるのみだった。
国王ヨーゼフ二世は集った面々を見渡しながら重々しく告げる。
「エインツの町における瘴気の蔓延とアズガルド帝国の侵攻、南の砦におけるルーフェン王国の挑発行為、タイミングを合わせたかのような此度の二件、到底偶然とは思えぬ。故にこれらは我が国へ二正面作戦を強いる侵略行為と断ずる。我が国家存亡の危機と言えよう」
会議室内がシーンと静まり返る。国王は矢継ぎ早に指示を下す。
「リシャール、直ちに一個師団を率いてエインツの町へ出陣せよ。瘴気を祓うため、神殿に協力を仰ぐことも忘れるな」
「はっ! 了解致しました!」
「軍務卿、南の砦へ一個師団の更なる増援を行え」
「はっ! 直ちに!」
「騎士団長、王都周辺並びに神殿周りの警備を強化せよ」
「はっ! 畏まりました!」
「各員、より一層の奮起を期待する」
全員が立ち上がって敬礼する。
「リシャール、ちょっと待て」
退出しようとした所を国王に呼び止められた。
「エインツの町を覆う瘴気はかなり濃いと聞く。聖女様に同行して貰えれば心強いと思うが...聖女様の身を危険に晒すことにもなる。なのでその判断はお前に任せようと思う」
それは国王としてではなく、一人の父親としての立場から掛けた言葉であるように感じられ、こんな時だと言うのにリシャールは少しだけ嬉しくなった。
「ありがとうございます。神殿の方々とも良く相談してみます」
とは言ったものの、リシャールの腹は既に決まっている。
◇◇◇
神殿の会議室にゴドウィン大神官を始めとする神官全員が集まっていた。
リシャールは開口一番、
「エインツの町に蔓延っている瘴気の浄化にご協力頂きたい。出来るだけ多くの方々にご参加頂きたいが、帝国軍の侵攻もあり危険を伴います。まずは希望者を募りたいと思いますので挙手願います」
第2王子という立場からすれば、もっと強引に決めても良かっただろうが、リシャールは敢えて神殿側に選択権を与えた。今後も神殿とは良い関係を築いていきたいし、この後の話をし易くするためでもある。
周りを伺いながら何人かの神官が手を挙げてくれた。それを見て頷きながらリシャールは言った。
「ちなみにに今回、危険なので聖女様にはご遠慮頂きます」
そう、こうすれば角が立たない。リシャールは最初からタチアナとそしてセイラを連れて行くつもりはなかった。だが最初にそれを言ってしまうと、聖女が行かないなら自分も行かなくても良いんじゃないか、という空気になると思った。
誰だって危険だと分かっている所になんか行きたくはないだろうから。だから敢えて先に参加者を募ることにした。
これで少なくとも嫌々参加するという人は居ないだろう。リシャールが満足していると、意外な所から援軍が現れた。
「では私も参加しましょうかな」
ゴドウィン大神官が手を挙げていた。
「だ、大神官様!? いけませんっ! 危険ですっ!」
カリム神官が慌てて言った。ちなみに彼は手を挙げていない。
「なあに、老い先短い身、危険な事なぞ怖くありません。それに聖女様に救って頂いた命です。聖女様の身代わりになれるというのなら、これ程名誉な事はございませんよ」
「し、しかし大神官様がいらしゃらなかったら神殿はどうなります!?」
「後の事は若い方々にお任せしますよ」
「そ、そんな大神官様...」
カリム神官は項垂れてしまった。
「......」
リシャールはもう言葉も出ない。自分はただタチアナとセイラの身を案ずるあまり、小賢しい策を弄したというのに、この方はそれを見据えた上で言って下さったのだ。まだまだこの方には遠く及ばないな...
リシャールはただただ頭を下げるのみだった。
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