聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜

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第2章 聖女と聖獣

第29話 覚悟

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「それは...なぜだ?」

 しばし沈黙した後、リシャールが尋ねる。

「あのトカゲが危険だからだ」

「しかしあれは」

「エインツの町で異変が起こってるのを知ってるか?」

 反論しようとしたリシャールをセイラが遮る。

「あ、あぁ、調査のために諜報部隊を派遣したが...」

「邪竜の封印が解けそうになっているって噂だよな?」

「あぁ、だがそれはあくまでも噂であって...」

「聖なる山の山頂から、黒い影が飛び去ったって噂があるのも知ってるか?」

「せ、セイラ、ま、まさか...」

 リシャールはセイラの言わんとしていることが段々と分かって来て、顔が青くなった。

「そのまさかだ。あのトカゲは邪竜の可能性がある」

 場が静寂に包まれた。

「そんな...まさか...じゃあ、もしかしてセイラが何かに呼ばれた気がしたってのは...」
   
 リシャールが静寂を破る。

「あぁ、きっと邪竜が完全に復活する前に始末しろってことなんだろうな」

「女神様が?」

「そうかも知れんが何とも言えん。神託が下りたって訳じゃねぇからな」

「しかしまだ信じられん...」

「リシャールだって見ただろ? あのトカゲの禍々しい魔力を。あれが邪竜じゃなくて何だって言うんだ?」

「それはそうだが...」

「しかも封印が掛かってるんだろ? だったらもう確定じゃねぇか。何を迷う必要がある?」

「し、しかしタチアナが...」

「タチアナがごちゃごちゃ言って来たって無視すればいい。それでも五月蝿く言って来るようならタチアナは聖女から下ろす」

「せ、セイラ! いくらなんでもそれは認められない!」

 リシャールは堪らず叫ぶ。

「なんでだ? 所詮はお飾り聖女なんだぞ? 真の聖女である私が相応しくないって言えばそれまでのはずだろ?」

「そういう問題じゃない! 既にタチアナは聖女としてのお披露目も済んでるんだ! 民衆にどう説明する? 第一、代わりの聖女はどうするんだ?」

「なにも聖女ってのは終身制じゃない。生前に代替わりしたって例もいくつかある。そうだよな、爺さん?」

「た、確かにありますが、さすがに就任して半年というのは...」

「前列の無い短さだろうが、それでも新しい聖女が本物だったらみんな納得するだろ?」

「せ、セイラ様、それはまさか...」

「あぁ、私が聖女になってやるよ。そんくらいの覚悟がなきゃこんな事言わねぇ」

 再び場が静寂に包まれる。

「...セイラの覚悟は良く分かった...少し時間をくれないか? 派遣した諜報部隊が明日にもエインツの町に着くはずだ。その情報を待ってからでも遅くないだろ?」

「急げよ? 封印が解ける前に始末しねぇと。蛇は卵の内に殺せって言うだろ?」

「あぁ、分かってる...」

「それと爺さん、あのトカゲを監視したいから私もしばらく神殿に泊まる。部屋を用意してくれ」

「わ、分かりました...」
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