聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜

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第2章 聖女と聖獣

第27話 屋台にて

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「呼ばれたって...誰に?」

 リシャールの問い掛けにセイラが答えようとした時だった。

「失礼致します、大神官様。そろそろ式典のお時間でございます」

 若い神官がゴドウィンに告げる。そう言われてリシャールも自分が式典に呼ばれていることを思い出した。

「あぁ、もうそんな時間ですか。申し訳ありませんが殿下、お話は後程ということで」

「えぇ、そうですね...セイラ、すぐ戻って来るからな。くれぐれもどこにも行くなよ?」

 くれぐれを強調してリシャールは言ったが、

「あぁ、分かったよ」

 セイラが言うことを聞くはずもない。


◇◇◇


「久し振りだな、ルイ。元気にしてたか?」

「セイラお姉ちゃん!」

 今、セイラは王都にある孤児院に来ていた。あの『聖女の奇跡』の時に助けたルイの様子を見に来たのである。あの時と違い、ルイは見違えるように元気になっていた。着ている服も安物ではあるものの清潔そうだ。

 これも一重に『エリクサー基金』のお陰である。セイラの作ったエリクサーを売った金で、ここ王都の孤児院のみならず国中の孤児院が恩恵を蒙った。

 セイラは孤児院だけではなく、老人ホームや障害者施設など福祉関係に金を回すため基金を設立した。だがエリクサーを気軽にほいほい作っていたら、有り難みがなくなるし、市場に流したら値崩れを起こす。

 だから基本は国に依頼された分しか作らない。それらは王侯貴族が高値で買い取るか、諸外国との交渉の切り札として使われている。

「ルイ、腹減ってねぇか? 屋台で何か食おうぜ?」

「やった~♪」

 ルイの日々の暮らし振りを聞いておこうと思ったセイラは、屋台広場に向かった。ここでは毎日、色んな屋台が軒を連ねている庶民の憩いの場だ。

 屋台を一通り見て回り、目ぼしいモノを両手一杯に買い込んだセイラとルイは、広場に設置してあるテーブルの一つに腰を下ろした。さあ食べようと思った時、隣のテーブルの会話がセイラの耳に入った。

「...じゃあ、エインツの町は相当ヤバい感じなのか?」「あぁ、なんでも邪竜が復活したとかなんとか」「噂じゃ何やら大きな影が飛んで行ったのを見たとか」「町の様子も暗く沈んだようだとか」「しばらく近付かない方が無難かもな」

 商人らしき四人の男達がそう話していた。 

「ルイ、ちょっと飲み物買って来るから先食べてろ」

「うんっ!」

 そう言って席を立ったセイラは、ビールのジョッキを四人分持って隣のテーブルに行った。

「おっちゃん達、今の話もっと詳しく教えて貰ってもいいかな?」
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