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第1章 聖女誕生
第13話 断罪
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セイラがメイドさん達のオモチャになっている頃、リシャールとレイモンドは出掛ける準備をしていた。
「さて、明日の晴れ舞台の前にイヤな仕事は片付けておかないとな。セイラと約束してるんだ、さっさと終わらせて夕食までに帰るぞ」
「はいはい」
2人は王宮を出てベルハザード家へ馬車で向かった。車中でリシャールがカインとアランに尋ねる。
「ところであの賊共はまだ黙りか?」
「えぇ、見上げた忠誠心と言うべきなんでしょうかね」
「仕えるべく主を間違えてるがな」
「ですね」
◇◇◇
先触れ無しの訪問にビックリされたが、表面上は愛想良く出迎えられた。紅茶を出されたがリシャール達は手をつけない。
「リシャール様、ようこそおいでくださいましたわ!」
「やあ、ブレンダ嬢。こんな時間に先触れも無く済まないね」
ブレンダは満面の笑みで迎えた。リシャールは冷笑で応える。
「とんでもありませんわ、リシャール様でしたらいつでも歓迎致しますわよ!」
ブレンダはリシャールが訪ねて来てくれたことに浮かれて気付いていないが、通常王族が臣下の家を先触れ無しに訪れることはまずない。余程の緊急事態でもない限り。
「急ではあるが明日『聖女認定の儀』を執り行うことになってね、君に真っ先に知らせておこうと思ったんだよ」
「あぁ、そうでしたの...」
ブレンダのテンションが一気に下がった。
「君、随分と聖女に拘っていたみたいだから、きっと気になるんじゃないかと思ってね」
「えぇ、それはまぁ...」
「良かったら明日、君も見に来るかい?」
「えっ?」
ブレンダは虚を突かれた。今まで他の候補者が儀式を受ける所に立ち会ったことなどなかったからだ。もっとも、有力と噂された候補者の内の何人かはブレンダの手によって消されたのだが...
「い、行きたいのは山々なのですが生憎、明日は外せない用事がありまして...」
「それは残念。今回は『当たり』かも知れないのに」
知っている。リシャールがわざわざ現地まで赴いて尚且つ少女を連れて来たのだ。可能性があると判断したからそうしたのだろう。
だからこそ自分の手駒の中でも精鋭を差し向けたのに...あの役立たずどもがっ! もちろん、そんなことを思っているのを悟られる訳にはいかない。ブレンダは奥歯をギュっと噛み締めて堪えた。
「あ、あら、そうなんですの。見られなくて残念ですわ」
リシャールはスッと目を細める。
「いやあ、それにしても今回は大変だったよ。候補者の少女を護送中、賊に襲われてね」
ブレンダの背中に冷や汗が流れる。
「そ、そうなんですの? 物騒な世の中ですわね」
「あぁ、全くだ。なんとか撃退出来たから良かったものの、肝が冷えたよ」
「ご無事でようございましたわ」
リシャールは冷めた目で睨み付け、
「本当にそう思ってる?」
ブレンダの冷や汗が止まらない。
「も、もちろんですわ。臣下として主君の無事を喜ぶのは当然でございましょう?」
リシャールは出された紅茶のカッブの縁を指でなぞりながら、
「その割には君、かなり激昂してたみたいじゃないか。中身が残ってる紅茶のカッブを壁に投げ付けるくらい」
ブレンダは全身から汗を噴き出している。
「なななななにを仰っているのか、分かりませんわ」
リシャールは歪んだ笑みを浮かべながら、
「あの壁に残ってるシミがそうだろ? 使用人は大事にしないと命取りになるよ?」
(あのメイドっ! 寝返りやがったのねっ! なんて恩知らずなっ!)
自分の事は棚に上げて怒り心頭のブレンダにリシャールは最後通牒を突きつける。
「王族の命を狙った者には国家反逆罪が適用されて、3親等以内の親族まで全てが処刑されるって知ってるかい?」
ブレンダは蒼白になってカタカタ震えている。自分の浅慮な行動で一族郎党が罰せられるかも知れないという現実に恐怖した。
「なにせ僕らを襲った賊は、候補者の少女には目もくれず、真っ先に僕の命を狙って来たからねえ」
リシャールがそう言った途端、ブレンダが弾かれたように叫んだ。
「なっ!?、そんなはずありませんわっ! 連中には少女だけを狙うようにとちゃんと指示を...あっ!」
ブレンダは慌てて口を抑えたがもう遅い。
「ブレンダ嬢を連行しろ」
カインとアランに両脇をしっかりと拘束されたブレンダは、最早抵抗する気力もないようだ。
◇◇◇
「お見事でした」
帰りの車中でレイモンドがリシャールを労う。
「最後は本人の自爆だったがな」
「それでもです」
「余罪があるはずだ。厳しく追及しろ」
「もちろんです」
フゥとため息をついてリシャールはシートに凭れかかる。もっと早くにブレンダの暴挙を止められていれば、救える命があったと思うとやるせない気持ちなる。
予兆はあったはずだ。ここ最近、聖女認定の儀に挑む候補者が減っていたこと、ブレンダの聖女に対する執着が尋常ではなかったこと、筆頭公爵という立場から情報が集め易かったことなど。
(情報漏れにもっと早く気付いていればこんなことは起きなかったはずだ。ベルハザード家の責任追及が本格的に始まれば、芋づる式に情報漏洩した者も明らかになるだろう。この際、膿を出し切るべきだ。忙しくなるな。だがまあ、まずは明日だ)
一人の狂女によって犠牲になってしまった者達のためにも、明日でこの聖女騒動にピリオドを打つ。
リシャールは固く心に誓った。
「さて、明日の晴れ舞台の前にイヤな仕事は片付けておかないとな。セイラと約束してるんだ、さっさと終わらせて夕食までに帰るぞ」
「はいはい」
2人は王宮を出てベルハザード家へ馬車で向かった。車中でリシャールがカインとアランに尋ねる。
「ところであの賊共はまだ黙りか?」
「えぇ、見上げた忠誠心と言うべきなんでしょうかね」
「仕えるべく主を間違えてるがな」
「ですね」
◇◇◇
先触れ無しの訪問にビックリされたが、表面上は愛想良く出迎えられた。紅茶を出されたがリシャール達は手をつけない。
「リシャール様、ようこそおいでくださいましたわ!」
「やあ、ブレンダ嬢。こんな時間に先触れも無く済まないね」
ブレンダは満面の笑みで迎えた。リシャールは冷笑で応える。
「とんでもありませんわ、リシャール様でしたらいつでも歓迎致しますわよ!」
ブレンダはリシャールが訪ねて来てくれたことに浮かれて気付いていないが、通常王族が臣下の家を先触れ無しに訪れることはまずない。余程の緊急事態でもない限り。
「急ではあるが明日『聖女認定の儀』を執り行うことになってね、君に真っ先に知らせておこうと思ったんだよ」
「あぁ、そうでしたの...」
ブレンダのテンションが一気に下がった。
「君、随分と聖女に拘っていたみたいだから、きっと気になるんじゃないかと思ってね」
「えぇ、それはまぁ...」
「良かったら明日、君も見に来るかい?」
「えっ?」
ブレンダは虚を突かれた。今まで他の候補者が儀式を受ける所に立ち会ったことなどなかったからだ。もっとも、有力と噂された候補者の内の何人かはブレンダの手によって消されたのだが...
「い、行きたいのは山々なのですが生憎、明日は外せない用事がありまして...」
「それは残念。今回は『当たり』かも知れないのに」
知っている。リシャールがわざわざ現地まで赴いて尚且つ少女を連れて来たのだ。可能性があると判断したからそうしたのだろう。
だからこそ自分の手駒の中でも精鋭を差し向けたのに...あの役立たずどもがっ! もちろん、そんなことを思っているのを悟られる訳にはいかない。ブレンダは奥歯をギュっと噛み締めて堪えた。
「あ、あら、そうなんですの。見られなくて残念ですわ」
リシャールはスッと目を細める。
「いやあ、それにしても今回は大変だったよ。候補者の少女を護送中、賊に襲われてね」
ブレンダの背中に冷や汗が流れる。
「そ、そうなんですの? 物騒な世の中ですわね」
「あぁ、全くだ。なんとか撃退出来たから良かったものの、肝が冷えたよ」
「ご無事でようございましたわ」
リシャールは冷めた目で睨み付け、
「本当にそう思ってる?」
ブレンダの冷や汗が止まらない。
「も、もちろんですわ。臣下として主君の無事を喜ぶのは当然でございましょう?」
リシャールは出された紅茶のカッブの縁を指でなぞりながら、
「その割には君、かなり激昂してたみたいじゃないか。中身が残ってる紅茶のカッブを壁に投げ付けるくらい」
ブレンダは全身から汗を噴き出している。
「なななななにを仰っているのか、分かりませんわ」
リシャールは歪んだ笑みを浮かべながら、
「あの壁に残ってるシミがそうだろ? 使用人は大事にしないと命取りになるよ?」
(あのメイドっ! 寝返りやがったのねっ! なんて恩知らずなっ!)
自分の事は棚に上げて怒り心頭のブレンダにリシャールは最後通牒を突きつける。
「王族の命を狙った者には国家反逆罪が適用されて、3親等以内の親族まで全てが処刑されるって知ってるかい?」
ブレンダは蒼白になってカタカタ震えている。自分の浅慮な行動で一族郎党が罰せられるかも知れないという現実に恐怖した。
「なにせ僕らを襲った賊は、候補者の少女には目もくれず、真っ先に僕の命を狙って来たからねえ」
リシャールがそう言った途端、ブレンダが弾かれたように叫んだ。
「なっ!?、そんなはずありませんわっ! 連中には少女だけを狙うようにとちゃんと指示を...あっ!」
ブレンダは慌てて口を抑えたがもう遅い。
「ブレンダ嬢を連行しろ」
カインとアランに両脇をしっかりと拘束されたブレンダは、最早抵抗する気力もないようだ。
◇◇◇
「お見事でした」
帰りの車中でレイモンドがリシャールを労う。
「最後は本人の自爆だったがな」
「それでもです」
「余罪があるはずだ。厳しく追及しろ」
「もちろんです」
フゥとため息をついてリシャールはシートに凭れかかる。もっと早くにブレンダの暴挙を止められていれば、救える命があったと思うとやるせない気持ちなる。
予兆はあったはずだ。ここ最近、聖女認定の儀に挑む候補者が減っていたこと、ブレンダの聖女に対する執着が尋常ではなかったこと、筆頭公爵という立場から情報が集め易かったことなど。
(情報漏れにもっと早く気付いていればこんなことは起きなかったはずだ。ベルハザード家の責任追及が本格的に始まれば、芋づる式に情報漏洩した者も明らかになるだろう。この際、膿を出し切るべきだ。忙しくなるな。だがまあ、まずは明日だ)
一人の狂女によって犠牲になってしまった者達のためにも、明日でこの聖女騒動にピリオドを打つ。
リシャールは固く心に誓った。
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