聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜

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第1章 聖女誕生

第11話 王宮にて

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 約3時間後、カインが応援の騎士を引き連れて戻って来た。

 待ってる間は何事も無く、警戒していた賊の仲間は居なかったようだ。

「カイン、ご苦労。賊共は纏めて馬車に乗せろ。準備出来次第、王都に向かう」

「リシャール様、こちらを。レイモンド様から預かりました」

 レイモンドは長年、リシャールの側近を務めている。信頼の置ける腹心の部下だ。そのレイモンドからのメモに目を通したリシャールは、

「やっぱりな...」

 獲物を捉えた鷹のような目をしてほくそ笑んだ。


◇◇◇


 空が茜色に染まる頃、西日に照らされた王都の外壁が見えて来た。王都をグルっと囲い外敵から守るように聳える外壁は、優に10mを越える高さを誇り、圧倒的な存在感を放っている。

 セントライト王国の王都エストリアは人口20万人を越える大都市である。都市部中央の小高い丘の上に聳える王宮を軸に、東西南北へと放射線状に街路が伸び、それに沿ってキレイに区画整理された街並みが広がっている。

 王都には東西南北に4つの通用門が設置されている。リシャール達一行は王都で一番利用者の多い東の通用門から入ることにした。一般向けの入門許可を求める長蛇の列を尻目に、貴人専用のゲートからすんなり中に入る。

「ふぅ、やっと着いたな」

 リシャールがホッと一息ついていると、その横でセイラが目をキラキラさせてハシャイでいる。

「うわぁ、こんな風になってるんだ~!  人が沢山居るな~!」

「初めてだとそう思うものか」

 リシャールにしてみれば見慣れた光景なので、セイラの反応が新鮮に見えた。
 
「まぁ取り敢えず、ようこそ王都へ。早速王宮に行こうか」

 王宮は別名『白鳥宮』と呼ばれる。貴重な白大理石を分断に取り入れた華麗な意匠と、某ネズミの国を思わせるメルヘンチックな外観が合わさって、夕闇が迫る中に白く浮かび上がる様は幻想的な雰囲気を醸し出していた。

「凄えな...」

 セイラが圧倒されたように呟いた。

「気に入って貰えたようでなによりだよ。さ、中に入ろうか」

 リシャールがまだボーっとしているセイラの手を引いた。

「リシャール様、お疲れ様でした。お待ちしておりましたよ」

「レイモンド、遅くなった。セイラ、彼はレイモンドといって僕の側近を務めている。レイモンド、彼女がセイラだ。よろしく頼む」

「あ、あぁ、セイラだ。よろしく」

「レイモンドです。こちらこそよろしくお願いします」

 レイモンドは年の頃はリシャールと同じくらいだろうか。少しくすんだような銀髪に緑の瞳、スラリとした長身に人懐こそうな笑みを浮かべている。リシャールに負けず劣らずの美男で、2人並べばさぞや絵になることだろう。

「これはなんとも麗しい方だ。リシャール様が夢中になるのも無理ありませんね」

「レイモンド、余計なこと言うな」

「これは失礼を」

 セイラが「やっぱりローリーじゃねぇか」と囁く。リシャールが窘めるが、レイモンドは涼しい顔である。

「レイモンドとは乳兄弟でね。優秀な奴ではあるんだがチャラいのが欠点なんだ。では僕の執務室に行こうか」

 後ろでレイモンドが、チャラくないですよ~ と言ってるのを無視して進む。

 リシャールの執務室は華美な装飾がほとんど無く、落ち着いた雰囲気の実務的な部屋だった。早速レイモンドに確認する。

「レイモンド、神殿への根回しは済んでいるな?」

「はい、明日の早朝に『聖女認定の儀』を執り行うこと、神官様方に了承済みです」

『聖女認定の儀』とは、神殿の祈りの間で聖女候補者が神に祈りを捧げ、神力の強さを示すというもので、初代聖女の故事に由来している。聖女候補者には聖水を作り出す事と、この儀式を司る事の両方が求められる。

「良し。ところで大神官様のご容態は相変わらずか?」

「はい...なにせお年を召していらしゃいますので回復魔法もあまり効果が無く...」

「そうか...そうだっ!  セイラっ!」

「な、なんだよ!?」

 今までの話についていけず、ボケっとしていたセイラは、いきなり振られてビックリした。

「君の回復魔法を試して欲しい。良いかな?」

「へっ!? 誰に!?」

「大神官様にだ。レイモンド、早速手配してくれ」

「いやいや、まだ聖女候補でしかない方を大神官様に合わすなんて神殿側が了承しませんよ。ましてや回復魔法を掛けるだなんて」

「セイラの魔力は桁違いだ。試してみる価値は十分にある。どうせこのままじゃジリ貧なんだ。手遅れになる前に試せる物はなんでも試してみるべきだ」

「はぁ、わかりましたよ。神殿に掛け合ってみます」

「頼む。セイラ、今日は疲れたろう?  部屋を用意してあるから、夕食までゆっくり休んでくれ。夕食は一緒に食べよう」

「あ、あぁ、分かった」



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