聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜

文字の大きさ
上 下
8 / 51
第1章 聖女誕生

第8話 尋問

しおりを挟む
 護衛2人の方もケリがついたようだ。賊が3人切り捨てられている。

 さすがに無傷でとはいかなかったようで、軽傷ではあるが2人共怪我を負っている。リシャールは護衛に後を任せ、セイラの方に向かった。

 セイラの目の前には、足から血を流し、苦しげに呻いている5人の賊共が転がっていた。良く見ると、5人共に淡く光るロープのようなもので縛られている。

「セイラ、これは?」

「これはな『バインド』っていう拘束魔法だ。魔力で作ったロープで縛ってあるんで縄脱けも出来ねぇ。盗賊なんかを生かしたまま捕らえるのに重宝してる」

「な、なるほどね。ち、ちなみにさっきの矢は?」

「火、氷、風、土の攻撃魔法を付与して放ってる。あ、それと命中補正も掛けてる」

「そ、そうなんだぁ...」

 この娘はどれだけの魔法を扱えるのだろう? 攻撃魔法を矢に付与して放つ攻撃なんて聞いた事も無い。リシャール自身は、魔力はあるが魔法を扱えないので、羨ましい限りである。

 そこへ賊共への処置を終えた護衛達が合流した。5人共絶命したらしい。身元を示すような持ち物は何も持っていなかったという。

「ただの破落戸じゃありませんね」

 護衛の1人が淡々と語る。

「というと?」

「洗練された動きでした。その道のプロというか、人を殺す訓練を受けていると思います」

「ふーむ、だとすればお前達が苦戦したのも当然か」

 この2人は、王族の護衛を担当する近衛の中でも特に腕利きで、リシャールも信頼している。だからこそ護衛を任せている。その2人が言うのだから間違いないだろう。

 セイラは怪我を負った2人に回復魔法を掛けてあげた。一瞬で全快する。

「ありがとうございます。セイラ殿が居てくれて本当に助かりました。我々だけでは殿下の御身を守ること叶わなかったでしょう。心より感謝申し上げます」

「いいってことよ、気にすんな」

 護衛の2人(名をカイン、アランという双子の兄弟らしい)に丁寧にお礼を言われ、セイラはちょっとくすぐったくなった。


◇◇◇


「さて、一応聞くが誰に頼まれた?」

 喋る訳無いだろうと思いながらも、リシャールは賊共に尋問した。尋問中に死なれても困るので、セイラに頼み回復魔法で止血のみの治療を行った。全快はさせていないので、痛みは継続していることだろう。

「......」

 案の定、黙りである。しかも無表情である。そこでセイラが、

「お前ら、ロッサムの町から後をつけて来てたよな?」

 そう言った瞬間、賊共の表情が僅かに変化した。リシャールはロッサムの町で馬車に乗り込んだ際、セイラが後ろを気にしていた事を思い出した。
 
「ロー...王子がロッサムに来ることを予め知ってて先回りしてたってことだよな?」 

 またもやローリーと呼びそうになったところに、リシャールの人を殺しそうな視線を感じたので慌てて言い直す。すると今度は露骨に賊共の表情が変わった。

「王子がロッサムに来ることを知ってるのってどれくらい居る?」

「限られた者だけだ」

「そりゃそうだな。王族の行動をおおっぴらにしてたら、命がいくつあっても足りねぇわな」

 そう言いながらセイラは、リュックの中をゴソゴソ漁り出した。

「何してんだ?」

「いや、確かこの辺りにメンテ用の工具がいくつか...あぁ、あったあった」

 セイラがリュックから取り出したのは、なぜかペンチだった。

「そんなもの何に使うんだ?」

「爪剥ぎ用」

「つ、爪っ!?」

「もしくは歯を抜いてもいいけど」

「拷問用!?」

「だってコイツら、王族の情報を知れる立場に居るような、身分の高い連中に雇われてんだろ? そう簡単に口割らねぇだろ?」

 そう言ってセイラは、ペンチをパチパチ鳴らしながら賊共に近付く。賊共がさすがに怯えた表情を見せた。
  
「待てセイラ! ちょっとそれは...」

 リシャールもかなり引いてる。

「ニッパーの方が良かったか?」

「そういう意味じゃねぇ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...