上 下
270 / 316

270

しおりを挟む
 自室に戻った私は手紙を認めた。宛先は領地に居るラインハルト宛だ。内容はたった一言、

『会いたい...』

 とだけ書いた。

 これを読んだラインハルトは、恐らく矢も盾も堪らず飛んで帰って来ることだろう。セバスチャンに渡そうと思って呼ぼうと思っていたら、

「失礼致します、お嬢様。旦那様方がお戻りになられました」

「そう、ありがとう。今行くわ。あぁ、セバスチャン。この手紙を出して貰える?」

「畏まりました」

 セバスチャンが部屋を出て行こうとする前に、勢い良くドアが開いて父親と母親が飛び込んで来た。

『リーチェ! 無事!?』

 見事にハモッた両親の姿を見た私は、どれだけ心配を掛けたのか、またどれだけ愛されているのかを実感できた気がして、なんとなくホッコリとした気持ちになった。

「落ち着いてください、お父様、お母様。順を追って説明しますので」


◇◇◇


「フハハハッ! なんとまぁ、それはさぞかし痛快だったことだろうな! 是非ともこの目で見たかったもんだよ!」

「えぇ、本当に! ゲス野郎はいい様ね! あぁ、その場に居たかったわぁ~!」

 私の話を聞き終えた両親は、二人揃って見逃したことを悔やんでいた。

「いやぁ、これなら閣議で元老院のジジイ共の退屈で長い話を、眠気に耐えながら黙って聞いてた甲斐があるってもんだよ...」

 父親が遠い目をした。その姿がありありと目蓋に浮かぶようだ。

「私も似たようなもんね...側妃様の話ったらとにかく要領を得ないことばっかりでウンザリしたもの...やれ『これから長い付き合いになるから仲良くしよう』だの『私のことは親戚だと思っていいのよ?』だの、抽象的で曖昧な表現しかしなかったのよね...リーチェの話を聞いて全て納得したわ...」

 なるほど。どうやら側妃様は私が断るだなんて微塵も思ってなかったらしいな。私がジークフリート王子の愛人になることを前提として話していたようだ。
 
 まぁ実際のところ、断るもなにもなかった訳なんだけどね。アレクサンドル王子が全て引き受けてくれたから。結局、私は一言も喋ってないしね。

 それもこれもみんな、今現在の私に婚約者が居ないからつけ込まれた訳であり、もしかしたら今後も同じような目に遭うかも知れない。であるなら、解決策は一つしか無いだろう。私も覚悟を決めるしかない。

「そこでお父様とお母様にお願いがあります」

 私は居住いを正してから両親に向き直った。そして自分を落ち着かせるためにフッと息を吐いてから、

「ラインハルトと結婚させてください」

 朗々とそう告白した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?

狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?! 悪役令嬢だったらどうしよう〜!! ……あっ、ただのモブですか。 いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。 じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら 乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!

飛鳥井 真理
恋愛
入園式初日に、この世界が乙女ゲームであることに気づいてしまったカーティス公爵家のヴィヴィアン。ヒロインが成り上がる為の踏み台にされる悪役令嬢ポジなんて冗談ではありません。早速、回避させていただきます! ※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。 ※連載中も随時、加筆・修正をしていきますが、よろしくお願い致します。 ※ カクヨム様にも、ほぼ同時掲載しております。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。

霜月零
恋愛
 私は、ある日思い出した。  ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。 「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」  その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。  思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。  だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!  略奪愛ダメ絶対。  そんなことをしたら国が滅ぶのよ。  バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。  悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。 ※他サイト様にも掲載中です。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)
恋愛
侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは7歳の誕生日が近づく頃、 前世の記憶を思い出し自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付く。 このまま進むと国外追放が待っている…! 焦るビアンカだが前世の自分は限界集落と称される離島で自給自足に近い生活をしていた事を思い出し、 「別に国外追放されても自給自足できるんじゃない?どうせなら自然豊かな南国に追放して貰おう!」 と目を輝かせる。 南国に追放されたい令嬢とそれを見守る溺愛執事のお話。 ※小説家になろう様でも公開中です。 ※ネタバレが苦手な方は最新話まで読んだのちに感想欄をご覧になる事をおススメしております。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...